書誌事項
- タイトル別名
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- Diffractive Behavior of Forced Harmonic Oscillator Caused by Phase Slippage
- イソウ ノ スベリ ガ ウミダス キョウセイ シンドウ ノ カイセツテキ フルマイ
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説明
<p>調和振動子は自然科学の様々な分野に現れ,物理現象を記述するための最も基本的な力学系であり,物理を研究している我々にとっても大変なじみ深いものである.調和振動子は固有の振動数をもっており,初期の外乱を与えれば,系はこの振動数で振動を続ける.系に対して外部から周期的な力を加え強制振動させた場合も同様で,系は固有振動数で応答しようとする.もし強制力の振動が系の固有振動と同調していれば(つまり外力の振動数が固有振動数と一致していれば),系の振動振幅は時間と共に急激に増大していく.これがいわゆる共鳴現象である.強制振動は,大振幅の振動を引き起こす共鳴条件近傍での振る舞いが重要視されるため,これまで共鳴現象と一緒に議論されることが多かった.</p><p>一方,光の回折現象とは,光が進行方向にある障害物の影に回り込みながら伝播していく現象を指し,歴史的には,光の波動説を裏付ける証拠となった現象の一つである.光の回折現象も我々にとって身近な物理現象であり,例えば,単スリットによる光の回折現象は高校の物理の授業などで一度は勉強したことがあるのではないだろうか.光の回折現象は,キルヒホッフによって,厳密な理論体系が構築された.それによると,単スリットによる光の回折現象は次のようにして理解できる.つまり,スリット開口部での光の波面が無数個の点光源からできているとして,スクリーン上での光の強度パターンは各点光源からの球面波の重ね合わせによる干渉縞であると考えるのだ.</p><p>「強制振動」と「光の回折」――片や力学の現象,片や光学の現象であり,両者に関連性はないように思える.ところが,我々は,次世代リング型光源加速器である回折限界光源リングにおける安全な電子ビームの廃棄手法を検討する中で,偶然にも面白い事実に出くわした.高密度ビームの安全な廃棄手法として,ベータトロン振動しながら周回する電子ビームに周期的キックを与え,ビームを空間的に広げてから廃棄することを考え,まずは,その廃棄ビームの挙動を強制振動子系としてモデル化してみることにした.すると,光の回折現象を記述する際によく用いられるフレネル積分が出てきたのだ.さらに,その表式は,単スリットからの光の回折における光の強度パターンを表す式と酷似しているのだ.</p><p>では,この強制振動の回折的な振る舞いはどこからくるのだろうか? 廃棄電子ビームは,加速によるエネルギー供給を断たれており,シンクロトロン放射によってエネルギーを徐々に失っていく.これに伴い,固有振動数も徐々に変化していく.実を言うと,このように固有振動数が時間と共にゆっくりと変化していく場合,調和振動子が受ける強制力は異なる周波数をもつ波の時間的な重ね合わせ(時間的な回折)として記述できるのだ.</p><p>今回得られた知見は,系のパラメーターがゆっくりと変化しながら不安定条件を通過していくような現象の解析に有効な手段を提供するものと期待される.このような現象は,加速器科学の分野においては,円型加速器での共鳴横切り現象として知られている.この現象は,エミッタンスの増大やビーム損失を引き起こす原因となり得るため,長年議論の対象とされてきた.また,本稿で示しているような「共鳴現象を波の時間的重ね合わせとして解釈する」という考え方は,ビームダイナミクスの新しい記述方法を切り開くヒントとなり得るのではないだろうか.</p>
収録刊行物
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- 日本物理学会誌
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日本物理学会誌 76 (5), 284-288, 2021-05-05
一般社団法人 日本物理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390850932918527616
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- NII論文ID
- 130008036188
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- NII書誌ID
- AN00196952
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- ISSN
- 24238872
- 00290181
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- NDL書誌ID
- 031434713
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- NDL
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可