学校での呼吸器管理

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  • ガッコウ デ ノ コキュウキ カンリ

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Ⅰ.はじめに 2016年6月の児童福祉法の改定により医療的ケア児の就学に向けての取り組みが加速している。2017年の文部科学省の調査では、呼吸器をつけて在宅で生活している児童・生徒数は、公立の特別支援学校1418人、公立の小中学校の189人となっており、年々増加している。学校で呼吸器管理を行う場合には、学校の環境設備・体制、呼吸器管理を行うために必要な知識を習得するための学習や研修の機会、実施マニュアル、チェックリストが必要である。 Ⅱ.事例紹介 事例は、難治性てんかん、呼吸器感染症のために、入院が頻回となり通学できなかったが、気管切開・在宅人工呼吸器管理となり、週2回通学できるようになった。しかし、往復2時間の車での通学と学校での待機は母にとって負担が大きかった。小学3年時に自宅から車で3分ほどの場所に特別支援学校ができ、その後、医療的ケア児の看護師が配置になり、近隣の医療センターで実施している週2回の学校への送迎付きのレスパイト事業が放課後夕方まで利用できるようになり環境が年々改善していった。これらにより高等部3年までの10年間ほぼ毎日通学できた。 通学をすることは、本人にとって規則正しい生活リズムができ、たくさんの人に声かけしてもらう機会となり、修学旅行(1泊2日)等の学校行事も参加でき、すべてが貴重な体験となった。家族にとっても悩みや喜びを共感できる仲間と情報交換の場ができたこと、さらに、時間にゆとりができ、弟のための時間がとれたことは大きなメリットであった。一番は、本児の成長を実感したことであった。 児童・生徒の自宅から学校までの距離の他に、学校と医療機関との距離も大切な要素である。併設しているのか、近距離にあるのか、離れているのかで緊急時の対応が大きく異なる。さらに学校での看護師体制によっても異なる。 Ⅲ.学校の設備・環境 学校医、指導医をしている立場として、学校の設備環境を見てみると、病院や施設では常に専門職の目とモニターで状態を把握するが、学校では専門職が少なく、モニターも学習の妨げにならない音量にする必要があり、またコンパクトなものになるため安全・安心の確保が不十分になる。 教室内にはコンセントが少なく、呼吸器、加温加湿器、吸引器、吸入器など一人で複数の電源が必要であり、たこ足配線となっている。また、空調も十分ではなく室温が不安定になる。さらに、自宅から学校までの通学時以外にも、教室間や校庭、トイレなど移動が多くそのたびに器械を動かす必要がある。 呼吸器管理を行うときに必要な設備・環境としては、 ・適切な配線・電源 ・適切な室温、湿度調整ができる環境 ・医療機器、用具などの収納スペース ・器材の洗浄などができる流し台 ・容易に通行できる出入口 ・安全に乗り降りできるスペース ・他の児童と同じ目線の高さになるような台(ベッドのようなもの) ・教室間の移動手段、トイレ、駐車場 以上のような環境を整えることが第一に必要である。 Ⅳ.安心・安全のために さらに、現場の不安や保護者の不安を取り除き、安心・安全なものにするために以下のことが必要である。 ・呼吸器管理や緊急時の対応についての講義や研修・実技訓練 ・呼吸器を扱うための手順書、チェックリスト ・緊急時(気管カニューレ抜去時、呼吸器のアラーム時)の対応 ・保健室職員、教員、学校介護職員などがチームとして、一人ひとりの体調の変化や機器について把握し情報共有をはかること ・いつでも気軽に相談を受けつける主治医、指導医、学校医の存在と緊急時にすぐに対応できる後方支援病院の存在 ・保護者との信頼関係(児童を中心として保護者を含めたチームを作ることが必要) 近年、在宅呼吸器は、軽量コンパクトとなり、様々なモードに対応でき、内蔵バッテリーも長時間もつようになって、表示も日本語となりアラームもわかりやすくなっている。ただ、種類が非常に多く、それぞれの機種ごとに名称や扱い方が異なり、常に個々の特性を理解する必要がある。 Ⅴ.マニュアル・チェックリストの必要性 学校で呼吸器管理を行う場合は、マニュアルが不可欠である。 ・医療的ケア全般のマニュアル ・TPPV(Tracheostomy positive pressure ventilation)に関しての総論的なマニュアル ・NPPV (Noninvasive positive pressure ventilation)に関しての総論的なマニュアル(マスクフィティングを含む) ・個々の児童が使用している呼吸器についてのマニュアル ・日常的な観察項目や備品についてのチェックリスト ・緊急時マニュアル(気管カニューレ抜去時、呼吸器停止時など) 呼吸器管理のマニュアルとして読んでほしい本は、日本呼吸療法学会から出版された『小児在宅人工呼吸療法マニュアル』と今回の座長の石川先生が書かれているNPPV療法についてのバイブルといえる『非侵襲的人工呼吸療法マニュアル』である。その学校の設備や立地条件を考えてマニュアルを作成する必要がある。 呼吸器のチェックシートをつくり、複数の目で確認をすることも大変重要である。それぞれの内容の例としては、備品確認のチェックシートや呼吸器の動作確認のチェックシートが挙げられる。備品確認のチェックシートの例としては、 呼吸器:□人工呼吸器、バッテリーの残量確認 □加温加湿器・人口鼻 □用手蘇生器 □テスト肺  □電源コード 学校までの移動中や学校内でつかう吸引器でも、想定されるトラブルとして、倒れて故障、途中でバッテリー切れ、AC電源忘れ、動作不良などがおこる可能性がある。また、震災や停電時などの非常時用として足踏み式吸引器や手動式吸引器がいざというときの備えとして必要である。 また、これは学校の例ではないが、30名以上の呼吸器の方を受け入れている当センターでみられたインシデント・アクシデントとしては、 ・呼吸器、加湿器の電源忘れ ・呼吸器回路の亀裂 ・人工鼻のはずし忘れ ・ウォータートラップの水が回路内に逆流 ・気管カニューレの事故抜去 ・呼吸器の突然の動作停止 などがあり、これらに対する対処法をあらかじめ想定し周知しておくことが大切である。 気管カニューレの事故抜去時の再挿入については、厚労省の回答によっても、緊急時は看護師が行うことは、法律的にも問題のない行為であることが明文化されている。しかし、そのためには、個々の児童に対して実際に気管カニューレを挿入することを体験しておく必要があると思われる。気管カニューレの再挿入のしやすさもケースごとに異なり、また、緊急時には姿勢がうまくとれないなどいつもと異なる状態が想定されるためである。 学校で人工呼吸器管理を行う場合には、チームで観察していく環境が必要である。 そのために大切なことは、石井光子先生が重症障害児(者)医療講習会でも述べられていたように「看護師だけで抱え込まないで、教員も巻き込んで学習する!!」ことが大切である。また、医療的ケアは、家族や担当教員などその子と関係の深い人だからできることもあり、下村和洋先生が述べられているように関係性と専門性の調和を築くことが大切である。 Ⅵ.最後に 今回、参加している皆さんがそれぞれの専門性から学校と協力していくことにより、呼吸器をつけた子どもたちが、安全にそして安心して当たり前に通学することができるようになる環境をつくっていくことが望まれる。

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