看護師が抱くちょっとした疑問を院内研究につなげるための支援

  • 仁宮 真紀
    心身障害児総合医療療育センター 小児看護専門看護師

書誌事項

タイトル別名
  • 看護師が抱くちょっとした疑問を院内研究につなげるための支援 : 看護師のモチベーションの向上を目指して
  • カンゴシ ガ ダク チョット シタ ギモン オ インナイ ケンキュウ ニ ツナゲル タメ ノ シエン : カンゴシ ノ モチベーション ノ コウジョウ オ メザシテ
  • −看護師のモチベーションの向上を目指して−

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抄録

Ⅰ.院内研究の支援体制の構築 看護師のキャリアアップの一環として、院内研究を現任教育の必須項目にしている病院や施設は多い。当院では、経験年数にかかわらず、いつでも誰でも研究を行うことができる。しかし、部署によって研究の実施状況には差異があり、研究を行ったとしても「いつ、誰が、何の研究を行っているのか」の共通認識を施設職員全員が持つことが難しい状況であった。 筆者は、小児看護専門看護師として当院に勤務しており、2016年2月より病棟所属の看護主任から研修研究担当看護主任へと異動になった。それを機とし、院内研究(本稿では、看護研究のことを指す)はもとより、看護師の現任教育に関わることになり、徐々に教育指導体制の基盤を整えていった。 2018年4月より、整肢療護園看護科長の理解と協力を得て、院内研究の支援や、療育に関する専門研修を行うための組織である「専門部会」を発足させた。専門部会の構成メンバーは、小児看護専門看護師(2名)、Pre小児看護専門看護師、重症心身障害看護師、ホスピタル・プレイ・スペシャリスト・ジャパン、3学会合同呼吸療法認定士、感染制御実践看護師の7名とした。それぞれの専門分野の専門的知識を活かした研究指導および研修開発を行う体制を整えることができた。 本稿では、筆者が実際に行っている院内研究の指導の実際や、指導を行う際に心がけている点などを、研究を行った看護師の感想などを織り交ぜながら紹介していく。 Ⅱ.院内研究の指導の実際 1.A看護師の「呟き」から始まった院内研究 2015年の暮れ、休憩室でA看護師と談笑していたとき、A看護師が、ふと「親子入園での看護師の関わり方に物足りなさを感じている」と筆者に呟いた。筆者はその呟きが気になり、それ以降、日々の雑談の中でA看護師に「具体的に何に対して物足りなさを感じているのか?」「それは、いつどのようなときに感じるのか?」などを聞いていった。 その後、筆者から「今感じている物足りなさの正体を探るために、研究という方法がある」とA看護師に伝えたところ、A看護師は「研究するのは初めてだけど、やってみたい」と答え、2016年3月にA看護師の院内研究はスタートした。 2.「研究」のプロセスを一緒に経る A看護師をはじめ、院内の若手看護師たちは臨床での研究を行った経験がない看護師が多い。そのため、最初にA看護師に研究のプロセスを説明し、一つひとつの研究のプロセスを研究チームの看護師たちと一緒に丁寧に辿ることに努めた。 現在は、4年制大学を卒業している看護師も増えているため、卒業研究を行うことで研究の一連の流れを学んでいる看護師もいる。しかし、研究の方法は理解していても、学生のときに行った研究と臨床で働きながら行う研究のプロセスには、研究者としての立ち位置や研究方法の選択の仕方、研究時間の確保などには大きな違いがある。そのため、看護師に「何がやりたいのか?」と問いかけるだけではなく、「どうすれば具体的に研究が進むのか」というプロセスを一緒に辿ることが重要であると考えている。 3.院内研究の難関は「倫理審査」と「日程調整」 看護師や療育支援職員が院内研究を行う上において、最初の難関は院内の倫理審査委員会の承認を得ることであると言っても過言ではない。特に、「倫理的配慮」に関しては、被験者の権利を擁護するための具体的な方策を記述するということに現場の職員は慣れていない。被験者が重症心身障害児(者)(以下、重症児)やその家族ではなく、施設職員である場合も、「強制力が働く可能性があること」や、「能力評価の対象になること」等々の観点は職員に注意深く伝えていく必要がある。 また、看護師は変則勤務であることが多いため、チームで研究を行う際にはメンバーとの日程調整が大きな課題となる。研究チームが3名以上の場合は、最低でも月に一回程度、研究チームの2名が同じ勤務帯で研究時間を確保できるように、病棟責任者もしくは研究指導者には可能な範囲での勤務調整を求めたい。 Ⅲ.院内研究における看護師の困難と学び 筆者は研修研究担当に配属されてから、現在まで7組の研究グループの指導を行ってきた。研究を実施した看護師から、研究を通して大変だったことと良かったこととして、下記のような意見があった。 <研究をして大変だったこと> A看護師:病棟業務や委員会と並行するので、時間がなかった。アンケート結果で母親の否定的な意見を読んで精神的なダメージを受けた。 B看護師:とにかく時間確保が大変だった。業務時間外は仕方ないと思ってもキツかった。 C看護師:資料収集や勉強したい分野を調べるまでに時間がかかったこと。研究手順が分からなかった。 D看護師:研究の時間を捻出することが難しかった。 <研究をして良かったこと> A看護師:追究していくと、多方面からアプローチしてみたいと思うことができ、研究って案外面白いと思った。病棟のケアを振り返ることができた。 B看護師:普段気になっていたことや雑談していたことが研究を通して知ることができ、具体策や「その先」が見えてきた。 C看護師:チームで成し遂げる経験ができた。いろんな考え方があったり、いつも一緒に働いているスタッフでも新しい一面を見つけて、お互いを認め合って尊重することができた。 D看護師:他部署との連携がとれた。様々な角度から子どものケアを考えることができた。 以上のように、臨床の場で研究を行う看護師は、「業務を行いながら研究時間を捻出すること」に対して負担を感じていたことが分かる。多くの施設で、研究時間の確保の問題は頻繁に議論されているであろう。この時間の問題を解決するための策として、「研究委員会」の立ち上げを提案する。委員会であれば業務時間内に実施できる可能性が出てくる。これには組織や管理職の理解が必須であるので、管理者に根気よく説明していく必要がある。 しかし、看護師たちは時間の問題に苦心しながらも、研究を行うことで重症児に対する看護を俯瞰して見ることができたため、自己の看護を振り返ることができたり、病棟職員の新たな一面や新たなケアを発見することができていた。これは、個々の看護観の醸成にもつながり、研究を行った看護師だからこそ習得することができた貴重な体験であると考える。 Ⅳ.すぐにできる院内研究支援 1.研究テーマの見つけ方 研究テーマをどのように見つけるかということは、院内研究を行う際に最初に直面する課題でもある。臨床では、「研究をしなければいけない状況になった→テーマが見つからない→無理やり探して見つける→興味を持てず、研究が苦痛になる」という負の連鎖が起こる場面を何度も見てきた。本来であれば、看護師がある現象に対して、「どうしてなのだろうか?」と疑問を抱き、その疑問を「探求してみたい」というパッションを湧き上がらせることから研究は始まる。 看護師は日々の煩雑な業務の中で、常に疑問を持ちながらケアを行っている。たとえば、「なぜ心拍が高いのか?」と疑問を抱き、「その原因を解明したい」と考え、「痛みがあるのかもしれない」、「痰が溜まってきたのかもしれない」、「何か伝えたいことがあるのかもしれない」等と探りながら、ケアを行っている。このように考えると、研究テーマはすぐに見つかるはずである。しかし、「研究は難しい、時間を取られる」等の先入観が、看護師が抱く疑問を研究に結びつくことを困難にしているのかもしれない。 こうした看護師の疑問を研究テーマに結びつけるためには、日頃の休憩室におけるちょっとした雑談や相談の中での「ちょっとした呟き」を見逃さずに、「その疑問を研究という形で追求してみよう」と勧めることが、看護師のモチベーションを向上させる一助になるのではないかと考える。 2.臨床ならではの研究の仕方 教育機関に在籍している場合や、何らかの資格取得のための養成講座に在籍している場合は、研究時間を確保しやすい状況にある。しかし、臨床の看護師が研究を行う場合、文献検索やデータ分析、考察を導くための構想に対して、業務外での多くの時間を費やすことは変則勤務交替の看護師にとってかなりの負担となっている。その負担感によって研究のモチベーションが下がることもある。 そこで、筆者は臨床ならではの研究の進め方として、研究テーマに関連する他施設への見学研修を行ったり、研究チームに入っていない看護師たちとテーマに類似した内容のディスカッションを行う時間を設けたりするなどの「研究テーマに関連するアクション」を行うことを研究指導の一環として実施している。このアクションを行うことで、看護師はデータを多角的かつ客観的に読み取ることができやすくなるのではないかと考えている。 3.学会への参加を積極的に行う 臨床の看護師は、研究や学会に対して「敷居の高いもの」という認識が少なからずあるように見受けられる。研究を行って新たな知見を導き出していても、「学会で発表するのは、レベルが高くて無理」という声も聞く。しかし、重症児は個別性が高く、ケア一つひとつに特殊性がある。そのため、事例研究の積み重ねを他の施設の看護師や職員と共有し合うことが、重症児のケアの質の向上やケアの工夫に関しては何よりも重要であると考える。 このような考えの元、筆者は自分が発表する学会には、臨床の看護師たちと一緒に参加するようにしている。「まずは学会に行ってみる」というところから始め、研究に関心を持ってもらうことが重要である。 (以降はPDFを参照ください)

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