シンガポールにおける仏教の現況

  • 辻本 臣哉
    Completed the Graduate School of Musashino University, PhD in Buddhist Studies

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  • The Current Situation of Buddhism in Singapore

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抄録

<p>本稿では,シンガポールにおける仏教の現況について報告する.シンガポールでの仏教は,様々な国の仏教が混じり合っているため,ユニークであると言える.シンガポールの仏教の特徴は,上部構造と下部構造に分けることができる.</p><p>下部構造は,中国文化に関係している.多くのシンガポールの仏教徒は,中国仏教の伝統を維持する中国系シンガポール人である.例えば,天福宮という中国系寺院では,媽祖という海の女神が本尊として,菩薩や関帝といっしょに祀られており,大乗仏教,儒教,道教が混在している.そして,中国系シンガポール人は,こうした寺院を通じて,中国人としてのアイデンティティを共有している.すなわち,寺院がコミュニティとしての役割を担っているのである.ただし,この下部構造は,世代交代と共に,中国系というアイデンティティからシンガポール人というアイデンティティに移行しているため,徐々に弱まってきている.</p><p>一方,上部構造は,法に関係している.シンガポールにはサンガがほとんどないため,近隣国から僧が来て,スリランカ,タイ,ミャンマー,カンボジアの上座仏教がシンガポールに紹介されている.興味深いのは,中国仏教のバックラウンドを持つ中国系シンガポール人が,上座仏教の教義を矛盾なく受け入れていることである.これまで分裂してきた歴史を持つ仏教が,シンガポールおいて融合される可能性が指摘できる.</p>

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