アントラサイクリンの少量投与で発症した急性心毒性

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  • Acute Anthracycline-Induced Cardiotoxicity With Small Dose

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説明

<p> アントラサイクリンは,累積投与量に比例して蓄積性の心毒性・心筋障害をもたらし,薬剤投与の数カ月~数年後に心不全を発症させる可能性がある.今回我々は,累積投与量が少量であるにもかかわらず,化学療法中に,同剤に起因すると考えられる急性心不全を発症し死亡した症例を経験した.</p><p> 症例は67歳男性で,悪性リンパ腫に対して化学療法(R-THP-COP療法)を開始され,2コース目の薬剤投与後に急性心不全を発症した.心不全発症時点における,アントラサイクリン系薬剤であるピラルビシンの累積投与量は100 mg/m2と少量であった.軽度の心電図変化あり,心臓超音波検査ではびまん性の左室壁運動低下(左室駆出率39%)を認め,血液検査でバイオマーカー(CK/CK-MBやtroponin I)の上昇を認めた.その後,極めて短時間の経過で,心不全および呼吸不全が進行して死亡した.剖検所見では,肉眼的および病理学的に広範な心筋障害を認め,アントラサイクリンの心毒性に特徴的な心筋細胞の核の空胞化を認めたことから,同剤に起因する薬剤性心筋障害と診断した.</p><p> 本例から,アントラサイクリンは少量投与でも急激な心筋障害をきたす可能性が示唆された.アントラサイクリンを投与された患者が急激な心機能低下や急性心不全をきたした場合には,投与開始後短期間かつ累積投与量が少量であっても,同薬による心毒性を考慮すべきである.</p>

収録刊行物

  • 心臓

    心臓 52 (10), 1155-1161, 2020-10-15

    公益財団法人 日本心臓財団

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