粒子反応トポロジー測定による中性子イメージング法の開発

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タイトル別名
  • Development of a Neutron Imaging Method Based on Particle Reaction Topology
  • リュウシ ハンノウ トポロジー ソクテイ ニ ヨル チュウセイシ イメージングホウ ノ カイハツ

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抄録

<p>放射線検出器は約120年の歴史があるが,検出原理はあまり変わっていない.放射線が物質中で起こすエネルギー損失を,電離損失またはシンチレーション等の発光現象を通して測定する.一方,放射線と物質の相互作用によって,入射粒子の方向・粒子識別等の情報が反応の幾何学的構造として残されている.反応の3次元計測によって初めてこれらの情報が得られる(トポロジー計測法).そのような情報はわずかに写真乾板や霧箱等で測定されたが,広く利用されることはなかった.近年,素粒子や原子核と物質の相互作用の研究は大きく進歩し,粒子反応の3次元測定が不可欠となり,現在は一般的な実験手法となった.ただそのような実験には複数の装置を組合せた大規模な装置が必要である.</p><p>様々な放射線計測において3次元計測ができれば,困難な放射線の方向測定や粒子識別が高精度で実現できる.しかし放射線のエネルギーはMeV程度と低く,固体中での飛跡はμm以下のスケールとなり困難である.それを可能にする検出器は1970年代に登場したガスTime Projection Chamber(TPC)である.ガス槽と1枚の2次元検出器のみで3次元計測を実現した.この画期的な手法はそれ以後,素粒子原子核実験の中心的飛跡検出装置として広く用いられている.ただTPCは多くの信号処理を必要とする大型装置であり,小型の放射線検出器に導入できるという考えはなかった.</p><p>希薄なガス中では放射線の飛跡もミリメートルスケールに拡大され,原理的にTPCで3次元計測が可能となる.我々は2000年当時,サブミリメートル間隔で信号が得られる新しいガス増幅位置検出器Micro Pattern Gas Detector(MPGD)の開発中に,簡単な回路で微弱なα線飛跡が検出できることを見出した.この発見をもとにして,すぐさまガンマ線コンプトン散乱の3次元計測用にMPGDを用いたTPC( μTPC)を開発した.世界初の電子式霧箱の実現である.ディスプレイ上に霧箱同様のジグザグなβ線飛跡のトポロジーが見えたときの感動は忘れられない.</p><p>この時期,大強度放射光の利用拡大や医療でのX線・ガンマ線診断等で放射線イメージングが大きく発展した.さらにダイナミックスを捉えられる時分割イメージング技術も出てきた.そのようななか,新しいプローブとしてJ-PARC大強度中性子利用が提案された.中性子はX線の苦手な軽元素に強く反応する等の特徴を活かし,タンパク質の物質構造解析や生命分野での利用が期待された.特にパルス中性子源を使えば,中性子飛行時間からエネルギー弁別や時分割イメージングが可能となる.このためJ-PARCでの中性子イメージング利用が非常に期待された.一方成果を得るためには中性子源から大量に発生するガンマ線の除去,中性子飛行時間計測,さらにX線同等の高位置分解能・高計数率が求められ,その実現は困難と思われた.</p><p>我々は全く異なる宇宙線物理で開発したμTPCを利用し,熱中性子と3Heによる(n, p)の反応のトポロジー計測を行うことで,これら要求の大半を満たす画像装置μNID(μ-PIC-based Neutron Imaging Detector)を短期間で実現した.現在多くの利用者に利用され新しい中性子イメージング解析の成果が出てきている.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 76 (12), 784-791, 2021-12-05

    一般社団法人 日本物理学会

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