個人化という問いの同時代的意義

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  • Contemporary Significance of the Question of Individualization
  • コジンカ ト イウ トイ ノ ドウ ジダイテキ イギ

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抄録

<p> 『危険社会』が出版されて三〇年が経ったいまもなお、ベックが論じた個人化は、雇用と貧困における「自己責任」の問題を分析するツールとして利用する価値をもつ。たとえば、イギリス・ブレア政権がワークフェア政策を導入する際、ブレーンであったアンソニー・ギデンズは〝福祉依存〟の予防が必要であると主張していたが、こうした言説はいま、保守政権による過酷なサンクション政策を正当化し、多くの犠牲者を生み出している。ベックはむしろ、失業において個人的な責任が強調され、それが心理的な方法で解決されるようになることを批判していたのである。福祉受給者が福祉に依存し怠けているという非難については、ワークフェア政策がはじめに導入されたアメリカで、ナンシー・フレイザーが依存を心理学的問題に縮減するものであるとして批判している。これらの問題は、現在、ポストフォーディズム時代における自己啓発やフレキシビリティの必要性を説く言説が注目されるようになって、別のかたちで論じられるようになっている。なかでも、中産層の没落への不安と「同調」反応について論ずるコーネリア・コペチュは、ベックに依拠しながらも彼とは逆に「階級社会への回帰」を主張しているが、むしろベックの個人化論が労働者階級はいまだ個人化されつづけていると指摘したことにこそ、意義があると言える。</p>

収録刊行物

  • 社会学研究

    社会学研究 98 (0), 43-60, 2016-05-30

    東北社会学研究会

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