所得税法183条1項における支払概念と債務免除益課税 : 広島高裁平成29年2月8日判決を素材にして

書誌事項

タイトル別名
  • Concept of Payment Under Income Tax Law 183, Paragraph 1 and Taxation on Exemption from Debt
  • ショトクゼイホウ 183ジョウ 1コウ ニオケル シハライ ガイネン ト サイム メンジョエキ カゼイ : ヒロシマ コウサイ ヘイセイ 29ネン 2ガツ 8カ ハンケツ オ ソザイ ニシテ
  • ショトクゼイホウ 183ジョウ 1コウ ニ オケル シハライ ガイネン ト サイム メンジョエキカゼイ : ヒロシマ コウサイ ヘイセイ 29ネン 2ガツ 8ニチ ハンケツ オ ソザイ ニ シテ

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説明

源泉所得課税において、所得税の前どりと評されている現行の源泉徴収制度では、支払者に源泉徴収義務が課され、また、法定納期限までに源泉所得税を受給者から天引徴収し、納税しなければならない。しかし、本件のように、資力を喪失した受給者から源泉所得税を天引徴収することができなかった場合、求償権(所得税法222条)を行使しても、支払者が納税した源泉所得税を、受給者から回収できない危険性が存在する。そこで、回収できない場合、受給者がまた、再度債務免除を起こすこととなる。つまり、現行の源泉徴収制度のもとでは、支払者に源泉徴収義務を課すことに限界が生じる。本論文は、広島高裁平成29年2月28日判決を素材とする。その素材に存在する、債務免除益課税の問題について、所得税法(以下、「所法」という。)183条1項にいう「支払」の概念を中心に、源泉徴収制度の問題にも論及しながら、債務免除益が「給与等」(給与所得)に該当するとしても、債務免除は「支払」に該当しないことを明らかにする。そこで、債務免除においては、1裁判所の経済的利益における事実認定をもとに、支払者自らが、経済的利益に対する明確な課税所得を把握することは困難であり、2そのため、現行の源泉徴収制度のもとで、源泉所得税を自動確定するのは不相応であり、3まずもって支払者自らが、その経済的利益の移転を明確に把握できなければ、その経済的利益が給与所得に該当しても、「支払」があったとはいえないのである。つまり、債務免除が、所法183条1項における「支払」に該当するためには、源泉徴収義務者である支払者に対し、経済的利益における課税所得が、予測可能なものであり、源泉所得税の天引徴収の時期、徴収額の確定が迅速、容易であり、かつ明確、確実でなければならないこと(要件1)及び、同法183条1項の「支払」の態様が、現実の金銭及び金員の移転でなければならない(要件2)。この2要件を基準に、現行の制度の趣旨、意義にふさわしく、また納税者保護の観点において、支払者に源泉徴収義務を課すことのリスク、負担を軽減するために、同法183条1項の「支払」に該当するもの、しないものを判断すべきであるとした。

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