慢性疼痛発生メカニズムの新しい展望

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  • 吉村 惠
    九州大学大学院医学研究院統合生理学分野

書誌事項

タイトル別名
  • New Perspective of Chronic Pain Mechanisms
  • マンセイ トウツウ ハッセイ メカニズム ノ アタラシイ テンボウ

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抄録

痛みは生体の警告システムとしてまた防御システムとして重要な役割を果たしているが, 発生学的には免疫系が最初に確立され, 続いて神経系と内分泌系が発達してきたものと考えられる. 神経を介する痛覚系は最も迅速に警告を発し, また意識にのぼるシステムである. それ故, 知覚された刺激は組織侵害性が強く, 早期に対処する必要がある. 一般的に臨床の現場で訴えられる痛みは何らかの疾患に伴う症状の一つで, 病気が治癒すれば痛みも消退するのが普通である. そのため, たとえ患者が痛みを訴えてもその基となる病気を治すことに腐心し, 痛みそのものに対する治療は軽視される傾向は依然として存在するのが現状である. しかしながら, 癌性痙痛にみられるように, 痛みは最も強いストレスであり免疫系に対する抑制作用が強い. そのため痛みに対する適切な治療は免疫系の維持, それによる癌の進行の抑制に大きく関わっている. このように痛覚系は生体の防御にとって必要不可欠なものであるが, 一方, 痛みそのものが治療の対象になることがある. いわゆる慢性疼痛と呼ばれる病態である. 多くの痛みは侵害性疼痛と呼ばれ, 組織損傷時の一過性の痛みで, 多くの場合傷の治癒と共に消失する. しかしながら, 一部の侵害性疼痛は傷が治癒した後にも持続し, 慢性疼痛へと移行していく. その発生機序に関しては最近多くの新しい知見が報告されている. また, 痛み刺激を感受する受容体の研究も急速に進み, 今後, 慢性疼痛発生メカニズムを基盤とした新しい治療法や治療薬の開発が大きく発展するものと期待される. そこで, 本総説では最初に痛みの伝達経路, 痛覚系の特殊性などを概説し, 次いで最近明らかにされてきた痛み受容体について述べ, 最後に様々な慢性疼痛モデル動物を用いて明らかにされてきた慢性疼痛の発生メカニズムについて紹介したい.

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