韓国における食肉小売価格制度の問題点と改善方向

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タイトル別名
  • Problems of Meat Retail Price System in Korea and Their Remedy Measures
  • カンコク ニ オケル ショクニク コウリ カカク セイド ノ モンダイテン ト

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抄録

韓国における一人当たりの国民所得が増大するし,人口も増えるから,食肉の消費が増大することは当然である.食肉生産が伝統的な小規模生産であるため,規模の経済が働かないし,生産要素の価格は上昇しつつあるから食肉の小売価格のみを抑制することは難しいことである.たとえそれが行政カによって一時的に可能であるとしても,その結果は食肉消費の増大,供給の慢性的な不足,流通秩序の混乱だけを招くことになる.本稿では,以上のような認識に基づき,韓国における食肉価格制度の改善方向を提示するために,①韓国における食肉小売価格制度の変遷,②韓国の現行食肉小売価格制度の問題点を明らかにすることに重点を置いて分析した.分析結果は以下のように要約できる.(1)戦後韓国における食肉小売価格政策は生産者価格の支持のための価格政策ではなく,消費者価格を低く抑制しようとする低価格政策で一貫してきた.すなわち,食肉小売価格が上昇する場合はそれを抑制する価格政策をとり,食肉小売価格が下落する場合は小売価格自由化政策をとってきた.(2)1981年の韓牛の肥育牛の生産者価格は生産費の85%水準であり,生産者価格がこのように低いのは主として韓国政府が食肉小売価格を低く抑えてきたからである.1984年の韓国の食肉小売価格を日本のそれと比較してみると,両国の生産費,流通マージンおよび所得の詳細な内容を無視すれば,日本の牛肉小売価格は韓国のそれより特選は4.4倍,極上は2.2倍,上は1.8倍,中は1.5倍高く,豚肉小売価格も極上は2.9倍,上は2.1倍,中は1.7倍高い.それで,現行の食肉小売価格の行政指導・統制を廃止し,安定価格帯制度を導入すべきである.牛肉の安定価格帯の基準価格の算定基準としては,拡大再生産を確保するために最も多い飼養農家の生産費を用いるべきである.豚肉の場合は需給実勢方式の採用が望まれる.なぜならば,需給実勢方式のもとでも豚肉生産が発展すると見込まれるので,需給実勢価格に基づいても生産発展には差し支えがなく,政策としても豚肉価格の安定を図りさえすればよいからである.(3)韓国における産地段階の生体価格と卸売市場での枝肉価格は自由市場メカニズムのもとで決まるのに対して,食肉小売価格は行政機関により指導・統制されている.それで卸売市場の正常な機能が萎縮し,市場外流通量が多くなった.その結果,不公正な取引や衛生上の問題が起こり,それは消費者の家計負担を増大させることになった.現在の韓国における食肉流通でみられる不公正な流通は,歪んだ食肉小売価格制度が基本的な原因である.(4)牛肉を特に好んでいる韓国人の食肉消費を牛肉から豚肉へ転換させるためには,牛肉の豚肉に対する相対価格比率を現在より高くすべきである.二つの食肉間の価格差を高くする際は,牛肉の消費抑制と豚肉の消費増大を図るため,牛肉の価格を高くなるように調整すべきである.(5)韓国における韓牛肉の小売価格は,肉質に格差があるにもかかわらず,同じである.それで,一般大衆は高級肉が買いにくくなり,肉質の悪い食肉を買わされるおそれがある.また,肉質のよい肉畜の飼養もできなくなる.そこで,食肉の等級化と肉質による価格差を反映した制度を導入することによって,肉畜の飼養農家はよりよい食肉を生産するようになるし,消費者も自分の所得水準に合う肉質の食肉が買えるようになる.食肉の等級化は食肉を部位別に分け,牛肉の場合は品種,性別,去勢のいかんを,豚肉の場合は品種,性別,去勢のいかん,脂肪の度合を基準とし,用途と消費者選好に基づいて等級化すべきである.等級間の価格差を決めるにあたっては,韓国より経験の多い日本の事例が韓国のモデルになりうる.以上の提案の実行に際して,解明すべき課題が一つある.すなわち,韓国の事情に適合する食肉の安定価格帯の基準価格の具体的な算定方式を導くことである.この課題の解明は他日を期したい.

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