北九州における海産ウグイの産卵習性とその漁法

DOI HANDLE Web Site 被引用文献2件 オープンアクセス

書誌事項

タイトル別名
  • The spawning habits of the anadromous Ugui-minnow, Tribolodon hakonensis hakonensis (Günther), with reference to the fishery in the northern Kyushu
  • キタキュウシュウ ニ オケル カイサン ウグイ ノ サンラン シュウセイ ト ソノ ギョホウ

この論文をさがす

抄録

北九州の博多湾から唐津湾にいたる沿岸の湾奥部や河口水域には海産ウグイが生息し,初春の頃に産卵のため主として松浦川の中流部へ遡上する.ここでは産卵習性を利用した人工産卵床による瀬つけ場漁業が行われている.人工産卵床は中流部の瀬に作られ,特に水深10~70cm,流速30~70cm/secのところが選ばれる.松浦川における産卵期は2~4月(水温11~17℃)で,産卵盛期は年によつてその時期の降雨量に左右されて遅速がみられる.産卵は水温が10℃以上になり,降雨後に増水して濁度が高まると集中的に行われ,下流の産卵床に始まつて順次上流へ移り,主として1番,2番,3番イダの3つの主群があつて,産卵盛期もほぼ3回が認められる.産卵ウグイの体長は産卵初期に大きく,逐次小さくなり,性比については一般に雌に比して雄が極めて多く,初期には約7.5倍で,産卵期の経過とともに雌の割合が増加はするが,末期でも雄が多い.産卵に先だつてほぼ30分前から,産卵床付近の淀みで産卵魚の"とび"の行動がみられ,ついで雌1尾を2~3尾の雄が追尾する多数の群が床の上をつつきり,この行動は5分間ぐらい行われる.この産卵前の行動に続いて,雌1尾を雄3~7尾が追尾して産卵床に現われ,雌雄ともに礫中に頭をつつこんでただちに放卵放精するものもあるが,その多くは次第に腹部を床に接して雌雄が体を押し合いながら放卵放精を行い,この行動は5~10秒間である.産卵後の雌は一般に床を去るが,雄の多くはそのまま床に残つて他の産卵中の群に加わり,このような産卵行動は約30分間継続するのが観察された.人工産卵床は径5cmぐらいの丸石を用いて,直径1.0~1.5m,高さ0.5~0.7mの円錐状に築き,その上流側には水流を調節するために数個の石がおかれ,やや下流には投網を打つための台石がおかれる.この産卵床は産卵時の産卵行動と水流とによつて下流側へくずれ,ほぼ楕円形になる場合が多い.ウグイは一般に産卵後の床には再び産卵しない傾向があるため,産卵後は新しい石を追加する.松浦川の人工産卵床の漁場区域には2つの漁業協同組合があり,上流側の組合では16の漁場にわけ,それらは毎年入札によつて利用者が決められているが,下流側の組合では3つの漁場が一定価格で利用されている.これらの漁場のうちで,長い瀬をもつものでは2つの人工産卵床が作られるが,その多くは1つの床が築かれる.漁獲には主として投網が用いられ,人工産卵床における1959年の年間の漁獲尾数は約2,000尾,750kg,遊漁者の釣による漁獲尾数が約1,000尾,380kgで,松浦川の年間漁獲量は約1.1ton程度と推定される.

収録刊行物

被引用文献 (2)*注記

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ