哲学における論文読解比較研究 : 2人の哲学者の「思考法」に着目して

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タイトル別名
  • A Comparative Study of Manuscripts on Philosophy : Emphasizing Two Philosophers’ “Way of Thinking”
  • テツガク ニ オケル ロンブン ドッカイ ヒカク ケンキュウ : 2ニン ノ テツガクシャ ノ 「 シコウホウ 」 ニ チャクモク シテ

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抄録

本共同研究は,教材研究において学校教師が複数の論文の読解を読み取る現実に即して,2つ以上の複数の論文を取り上げ,その領域における研究=学習の発展を読み取るには,どのように読解すればよいのかを究明するものである。本分担研究は,主に価値領域に関わる哲学研究に焦点を当て,そこから特性の異なる2つのタイプの研究を抽出し,それらを比較しながら,当該分野における研究の発展を読み取るための読解に関して検討を加えた。具体的に対象としたのは,工藤和男『いのちとすまいの倫理学』(晃洋書房,2004年)とスミス,M.著『道徳の中心問題』(樫則章監訳,ナカニシヤ出版,2006年)である。これらは双方とも,人類に突き付けられてきた本質的で解決が困難とも思われる問題に応じて,たち起こった研究である。しかし,両書を「倫理学はなにを生み出せるのか」という視点をもって読解すれば,その研究の在り方は大きく異なることが見いだせる。 上記2つの研究は,その過程における思考のメタレベルに差異が生じていた。工藤の研究は,「我々が行動する際の指針は何か」を追求するものであり,「行動についての思考」であった。一方,スミスの研究は,「「我々が行動する際の指針は何か」を追求する研究者の指針は何か」という工藤の研究よりメタレベルを一つ上げたものであり,いわば「思考についての思考」となっていた。メタレベルを上げることによって,表面上現れていた問題をより深く探り,これまで研究の対象外だったさらに深刻な諸問題を露出させ,我々が吟味可能な範囲を広げている。哲学研究の目的を本質的問題への新しいアプローチを創出することであると考えるならば,スミスの研究は,新しい問題を掘りだし,その可能性をより広げるための研究の発展と捉えることができる。 以上の比較考察の結果,哲学研究における読解方法として,探究した結果を読み取ろうとするのではなく,その思考のプロセスを読み取ることによって,その領域における研究=学習の発展を読み取ることが可能になることが示された。

収録刊行物

  • 学習システム研究

    学習システム研究 4 13-23, 2016-03-31

    学習システム促進研究センター (RIDLS)

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