共同両親休暇の意義と課題

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  • Shared Parental Leave
  • キョウドウ リョウシン キュウカ ノ イギ ト カダイ

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抄録

イギリスが2014年より導入した「共同両親休暇(Shared Parental Leave)」は、父親と母親の双方が利用できる、育児のための休暇制度である。本稿は、共同両親休暇制度の意義と課題の検討を目的として、共同両親休暇制度導入の背景(第II章)、母性休暇及び法定母性手当の概要(第III章)、共同両親休暇制度の詳細(第IV章)、共同両親休暇制度に関する論文(第V章)、共同両親休暇制度に関する裁判例(第VI章)、共同両親休暇制度に関する下院女性及び平等委員会による評価と政府の回答(第VII章)を概観し、 最後に検討を行う(第VIII章)。ブレア政権が打ち出した「家族にやさしい政策」は、キャメロン政権下においても、歳出削減等の曲折を経ながらも引き継がれ、2014年、共同両親休暇が導入された。共同両親休暇制度の前提となるのが、母性休暇及び法定母性手当の権利である。母性休暇は、勤続期間の長さに関わらず、妊娠した被用者に付与される、最長52週間の休暇の権利である。法定母性手当は、一定の勤続期間と所得を要件として、全39週間に渡り支給される手当である。最初の6週間は、当該被用者の賃金の90%の額が、7週目以降は、法定額(2019年4月より週148.68ポンド)または賃金の90%のいずれか低い方の額が支給される。共同両親休暇は、母親たる者が、自身の有する母性休暇の権利を短縮することにより、子の父親も、当該短縮期間分の共同両親休暇を取得することを可能にする制度である。母親と父親は互いに、共同両親休暇をいつ、どれだけ取得するかを両者の合意によって決めることが出来る。母親はまた、自身の有する法定母性手当の権利を短縮することにより、共同両親休暇を取得する父親に法定共同両親手当を受給する権利を与えることも出来る。法定共同両親手当の額は、法定額、または賃金の90%のいずれか低い方の額(すなわち、法定母性手当の7週間目以降の額と同じ)である。共同両親休暇制度は、26週間の勤続を必要とする資格要件、複雑で厳しい手続き要件、法定共同両親手当の支給額の低さ、等に問題があると論じられている。裁判例では、母性休暇を取得する女性被用者には法定母性手当に上乗せした独自の手当を支払う一方、共同両親休暇制度を取得する被用者には法定共同両親手当のみ支払う使用者もあり、こうした使用者の措置が、性差別に当たるか否かが問題とされ始めている(Ali v Capita Customer Management Ltd(Working Families intervening); Chief Con-stable of Leicestershire Police v Hextall(Working Families intervening); Hextall v Chief Constable of Leicestershire Police(Working Families intervening)事件(2019年EWCA Civ 900))。2019年に発行された下院女性及び平等委員会による報告書には、母親が有する休暇の権利を、母親が望む場合にのみ、配偶者に与えるという、共同両親休暇の最大の特徴である「母性の振替設計」そのものを問う意見があげられている。共同両親休暇制度は、働く両親が育児を分担し合う文化の創造を目指すものであるが、本制度をめぐる議論を通して、根強く残る伝統的な性別役割意識と、何とかしてその意識を改革しようと法制化に取り組む現在のイギリスの姿が分かる。

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