乗算的バイリンガリズムと支援教室 : 社会における言語間の権力関係の観点から

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タイトル別名
  • Additional Bilingualism and a Supporting Classroom: The Power Relation between Languages (L1 and L2) in Society
  • ジョウザンテキ バイリンガリズム ト シエン キョウシツ シャカイ ニ オケル ゲンゴ カン ノ ケンリョク カンケイ ノ カンテン カラ

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説明

多言語環境に育つ児童生徒対象の日本語教育が成人対象の場合と大きく異なる点は、対象者が第1言語 (L1) においても認知的能力においても未だ発達過程にあることを考慮して行なわなければならない点である。彼らにとって言語は単なるコミュニケーション上の役割にとどまらず、認知的な発達を促す上でも重要な役割を担うものである。従って第2言語 (L2) の日本語の習得だけではなく、L1も共に保持伸長を図る乗算的バイリンガリズムの視点に立つ必要がある。Landry & Allard (1992) によると、特にL1の社会的地位が低く社会の主要言語との格差が大きい場合には、自らのL1が社会的に劣勢であることを感じ取り、やがてL1を捨て、社会的に優勢な言語 (L2) のモノリンガルになってしまうといわれている。さらに、L1の社会的地位が低い場合には、学校においてその価値を積極的に認められるような環境をつくることが乗算的バイリンガリズムの成功を握る重要な要因の一つであると指摘している。しかし実際には、学校の教室では社会の再生産が行なわれる傾向があり (Wilcox, 1982)、参加者のやり取りには社会における言語間の権力関係が如実に反映されメッセージとして伝えられていることが指摘されている (Martin-Jones, 1995)。本稿では、乗算的バイリンガリズムの理念に基づき運営する地域の学習支援教室を対象とし、乗算的バイリンガリズムの実現の可能性を探るため、参加者のやりとりに反映される言語間の権威差とメッセージを明らかにすることを試みた。考察の結果、支援教室では二言語が同等に用いられており、「社会(外)が学校(教室)を規定する」という関係は完全なものではなく、外とは違う「新たな関係性」を教室で創ることが可能であることが明らかになった。日本における乗算的バイリンガリズム実現のための一つの可能性として提案したい。

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