道徳性の発達と問いかけの可能性

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タイトル別名
  • Stages in the moral development and Possibilities of Interrogation
  • ドウトクセイ ノ ハッタツ ト トイカケ ノ カノウセイ

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抄録

文部科学省の有識者会議「道徳教育の充実に関する懇談会」は2013年12月、現在は正式の科目ではない「道徳の時間」を「特別の教科 道徳」(仮称)として位置付け、道徳教育の改善と充実を図ることを提言した。「道徳の時間」が教育課程上「特別の教科 道徳」(仮称)と称される理由は、検定を受けた教科書を用いるが、数値による評価はおこなわず新たに記述式の評価をおこなうためであるという。その後、「道徳に係る教育課程の改善等について」諮問を受けた中央教育審議会は、有識者会議の提言を踏まえつつ、2014年10月に答申を提出した。これによって道徳の授業は近年にも、小中学校において正式な科目として実施される方向である。新聞等の多くのメディアが、こうした「道徳の教科化」の経緯や波紋を報じてきている。以前から形骸化が問題視されている現在の「道徳の時間」を見なおすことへの期待は大きいとしても、検定教科書を使い、評価をおこなうことになる「道徳の教科化」に対して教育関係者の懸念、不安は根強いようである。こうした状況を鑑み、小稿は、道徳教育の根本ともいえる子どもの発達についての理論に目を向け、具体的な授業の場面を念頭において考察をすすめたい。そこで手がかりとするのはアメリカの心理学者ローレンス・コールバーグによる道徳性の発達段階論である。また、フランス現象学の哲学者モーリス・メルロ=ポンティの教育思想にも目を向けたい。大人と子どもの関係性についての彼らの知見を参照することにより、「対話」や「問いかけ」を方法とする教育実践の可能性と理論的基礎を見定めることができるはずである。以下、次のような仕方で考察をすすめる。第1節では、有識者会議の答申を参照しつつ、現行の学習指導要領を検討し、子どもの発達にかかわる道徳教育の課題を析出する。これをふまえて、第2節では、コールバーグの理論を検討することによって、発達段階のもう一つの側面を浮き彫りにする。第3節と第4節においては、メルロ=ポンティの知見をふまえつつ、大人と子どもの関係性、および心理的な硬さに対する両義性の観点について検討する。これらの考察を背景に、道徳教育における「対話」と「問いかけ」の意義と可能性を探りたい。

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