ドイツにおける人格権の基本構造

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タイトル別名
  • Die Rechtsprechungen des deutschen Bundesverfassungsgerichts zur rechtsdogmatische Konstruktion des allgemaines Personlichkeitsrecht
  • ドイツ ニ オケル ジンカクケン ノ キホン コウゾウ

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抄録

ドイツ基本法において,一般的人格権は,基本法1条1項(「人間の尊厳」)と結びついた2条1項(「人格の自由な発展の権利」)により基礎づけられ,一般的行為自由とともに2条1項の保護の射程を構成している。同様に,わが国においても,人格権は日本国憲法13条の権利の一つとして保障されるが,しかし,それが13条の中でどのような位置を占めるのかは判然としない。13条により保障される権利とされた個別の権利のうち,プライヴァシー権や名誉権などが,人格権と総称されるにとどまる。周知のように,13条が保障する権利は,大別して,プライヴァシー権と自己決定権とに分類される。では,人格権は,これらのうちのいずれかに吸収されるのか,それともそれらとは別個に存在するのであろうか。  とりわけ13条の幸福追求権は,包括的人権として,14条以下の個別的権利ではカヴァーされない権利・利益の根拠規定とされ,これまで種々の権利が承認されてきた。たとえば,わが国の裁判所は,判例において,肖像権など諸々の権利を導出してきたし,また学説においては,それよりも広く13条の保障範囲を認容する。憲法制定当時,予想もされなかった利益侵害に対し,新たな憲法上の保障の可能性を開くことそれ自体は,歓迎すべきことではあるが,しかしその一方で,「新しい人権」の創設を安易に,また過剰に認めることによる「人権のインフレ化」の招来を懸念する見解が多数ある。  13条による人権保障が無秩序な拡散に陥らないためにも,13条の保障内容を(抽象的にならざるを得ないとしても),ある程度,枠づけしておく必要があろう。とはいえ,13条の権利内容の確固とした枠組みを構築することはできない。それは,「包括的」人権が,時代の変遷に応じて常に可変的な特性を有するためであり,また,招来する危険が予測不可能であるためである。そうした性格を有するとしても,将来的に生じる新たな危険に対応した適切な人格の保護の必要性は,今後ますます増大することは明らかであり,こうした需要に適切に対応するためには,この種の権利の保障対象の特性を模索することが必要となろう。  この点,ドイツでは,基本法2条1項から導出される個別の基本権の単なる羅列に終わることなく,それぞれの基本権の性格に応じた分類がなされている。これまで連邦憲法裁判所は,後述するように,一般的行為自由と一般的人格権という二種類の基本権を導出したが,それらの基盤にはそれぞれ異なった性格があることが明らかにされている。また,一般的人格権の保障内容については,さらに「私的領域の保護」と「人物描写の自己決定権」という分類がなされ,それぞれ異なった性格が付与されている。ドイツにおける人格の自由な発展の権利の保障内容に,いかなるものが含まれるのか,またそれらがどのように分化されたのか,について整理・検討することは,わが国における13条の保護の射程を考える上で何らかの示唆を与えるものであると思われる。  本稿では,ドイツ連邦憲法裁判所の判例を中心に,人格の自由な発展の権利の保障内容が,それぞれ,どのように承認されるにいたったのか,またどのように分化したのかを概観した後(後述2),その後の判例における展開(後述3)について検討することにしたい。

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