松尾尊兊と大正デモクラシー研究

DOI HANDLE Web Site 参考文献111件 オープンアクセス

書誌事項

タイトル別名
  • Takayoshi Matsuo and Taisho Democracy Studies
  • マツオソンダ ト タイショウ デモクラシー ケンキュウ

この論文をさがす

説明

本論の目的は,戦後日本の歴史学を牽引し,大正デモクラシー研究で知られる松尾尊兊(1929-2014)の軌跡と学問形成を実証的に明らかにしながら,分析概念「大正デモクラシー」の内実を再検討することである。時期は,松尾が生まれた1920年代末から主著『大正デモクラシー』を刊行する1970年代までである。本論の構成は全10章からなる。1,2章は生誕から京都大学人文科学研究所助手に就任するまでの軌跡を松尾の回想や資料から描いた。3,4章は,松尾を取り巻く政治的状況や,研究環境から,彼の歴史研究者としての歩みを明らかにした。5章で,松尾の大正デモクラシー研究の学問的,社会的背景を説明したうえで,彼の研究の特徴である,自由主義・社会主義・国民主義連携の強調(6章)や,近代化論批判を通じた大正デモクラシー研究の位置づけ(7章),「急進的自由主義」の提示による大正デモクラシー研究の発展(8章),以上の集大成となる『大正デモクラシー』刊行(9章)とその学問的な意義(10章)についてそれぞれ検討した。本論の意義は次の3点に集約できる。①2014年に亡くなった松尾の業績についてはまだ検討が始まったばかりだが,本論は松尾を戦後史及び戦後歴史学に具体的に位置づけ,後者の意義を明らかにしたこと。②近年批判の対象となる松尾の大正デモクラシー研究について同時代の歴史学との連関や政治的背景を踏まえることで再考をうながし,松尾が提起した大正デモクラシーの内容と意義を再確認したこと。③松尾の大正デモクラシー研究は,戦争やファシズムを批判するだけでなく,それらを批判する変革・抵抗運動における問題を検証することで,各思想・運動が提携する場に着目し,各主体が内なる指導性を相対化しつつ,個人の「自由」を実現する道筋を描こうとしたことを明らかにしたことである。

収録刊行物

  • 人文學報

    人文學報 117 27-68, 2021-05-31

    京都大學人文科學研究所

参考文献 (111)*注記

もっと見る

関連プロジェクト

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ