バランスに特化したトレーニングを立案する上で Mini-Balance Evaluation Systems Test (Mini-BESTest) を用いたバランス機能評価が有用であった脳卒中片麻痺症例

  • 堀之内 真聖
    医療法人田中会武蔵ヶ丘病院リハビリテーション部
  • 野中 裕樹
    医療法人田中会武蔵ヶ丘病院リハビリテーション部 畿央大学大学院健康科学研究科健康科学専攻
  • 藤井 廉
    医療法人田中会武蔵ヶ丘病院リハビリテーション部 畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室

説明

<p>【はじめに】</p><p>臨床における代表的なバランス評価指標として Berg Balance Scale(BBS)があり,信頼性や妥当性が示されている.先行研究によりBBS は転倒予測や病棟自立度の判定基準として有用とされる一方で,天井効果を示しやすいことやバランスを構成する要素の評価には不十分であることが問題点として指摘されている.一方,Balance Evaluation Systems Test(BESTest)は運動制御のシステム理論に基づき考案された多面的なバランス評価指標であり,バランス障害を要素別に検出することでバランス障害に対する治療的介入指針を明確化することができる.また先行研究により信頼性・妥当性が示されており,臨床有用性が確立されている.今回,BBS ではカットオフ値を上回っているにも関わらず病棟内歩行に不安定性を認め,見守り歩行から脱却困難であった脳卒中片麻痺症例を経験した.その症例に対しBESTest の短縮版であるMini-BESTest を用い,その評価結果に対する特異的なバランストレーニングを実践したことで,バランス機能に改善を認めたため報告する.</p><p>【症例紹介】</p><p>症例は,左被殻出血による右片麻痺を呈した70 歳代男性であった.発症後1 ヶ月時点の理学所見について,SIAS 下肢運動機能は 5,5,4 で,FIM 歩行は5点であった.また,Mini-BESTest は20/28 点(予測的姿勢制御:4/6 点,反応的姿勢制御:1/6 点,感覚機能:6/6 点,動的歩行:9/10 点)とカットオフ値を下回っており,Berg Balance Scaleは52/56点とカットオフ値以上であった.</p><p>【理学療法介入】</p><p>Mini-BESTest の結果,下位項目の反応的姿勢制御に顕著な低下を認めた.そこで,一般的な理学療法に加えて,反応的姿勢制御に対するアプローチとしてStep Training を考案し,1 ヶ月間実施した.Step Training の方法は,先行研究を参考に,セラピストの口頭指示に対する前後左右への反応的なステップ課題,前後左右へのステップを要するキャッチボール課題を設定した.</p><p>【結果】</p><p>1 ヶ月間の介入後,下肢運動機能は不変だったものの,FIM 歩行は7 点に改善した.また,Mini-BESTest は27/28 点(予測的姿勢制御:6/6 点,反応的姿勢制御:6/6 点,感覚機能:6/6 点,動的歩行:9/10 点)とカットオフ値以上,BBS は56/56 点に改善した.介入による改善度の妥当性を示す最小可検変化量はMini-BESTest で3.5 点,BBS で6 点と示されている.BBS は最小可検変化量以上の変化は得られなかったものの,Mini-BESTest は最小可検変化量を上回る結果となった.</p><p>【考察】</p><p>本症例において,BBS はカットオフ値を上回る結果であったが,Mini-BESTestはカットオフ値より低値を示していた.このことから,Mini-BESTest はBBSと比較して,バランス障害を鋭敏に捉えることが可能な指標であることが確認された.また,Mini-BESTest の結果において,Step Training 前後の変化量が最小可検変化量を上回ったことから,Step Training による介入の有用性が示された.先行研究より,反応的姿勢制御の障害は,不安定性を代償するための動筋- 拮抗筋の過度な同時収縮によって引き起こされると考えられている.多様な方向への迅速な反応が要求されるStep Training によって,姿勢調整の安定性がもたらされ,同時収縮パターンが是正したものと考えられた.</p><p>【結論】</p><p>Mini-BESTest を用いたことで,バランス障害の中でも反応的姿勢制御の異常を捉えることができ,その異常に対する特異的なリハビリテーションプログラムの立案につなげることができた.また,刺激に対し迅速な反応が要求されるStep Training は,反応的姿勢制御の改善に有用であることが示された.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に基づき,対象には十分な説明を口頭で行い同意を得た.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390853908023036928
  • NII論文ID
    130008154594
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2021.0_115
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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