大腿切断後の幻肢により移乗動作の獲得に難渋した一例
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- 岡村 莉奈
- 十善会病院 リハビリテーション科
説明
<p>【はじめに】</p><p>今回,大腿切断後の幻肢によって移乗動作の獲得に難渋した症例を担当した.幻肢の改善を目的に,感覚や身体図式に焦点化した理学療法を実施した結果,幻肢が短縮し移乗動作を獲得したので考察を加えて報告する.</p><p>【症例紹介】</p><p>80 歳代女性(BMI12.6).入院前は独居であり,移動は屋内伝い歩き,屋外は車椅子介助であった.X-1 日に自宅で転倒し救急搬送.右下肢慢性動脈閉塞症と診断され,X 日にA 病院にて短断端(断端長:27cm)での右大腿切断術が施行.X+1 日より理学療法を開始.X+27 日に当院へ転院し,X+46 日より担当となる.</p><p>【初期評価(X+46 日)】</p><p>HDS-R:27 点.断端の組織修復は良好.疼痛評価:部位;(1)断端部,(2)幻肢(断端より15cm,姿勢変動に伴うテレスコーピング現象あり),性質;チクチク,VAS;(1),(2)ともに安静時0/ 動作時40.触覚;軽度過敏,位置覚;重度鈍麻.筋力(GMT);上下肢3/3,体幹2.立位保持時間; 3 秒(片手支持).移乗動作:軽介助;幻肢の影響により,立位時に患側股関節が過屈曲する.それに伴い体幹の過度な前屈と骨盤の後傾が生じるため,重心が後方に移動し臀部の回旋に介助が必要.mFIM;50 点.</p><p>【問題点】</p><p>本症例が移乗動作に難渋する要因として,感覚入力と視覚情報の不一致による身体図式の破綻が最も影響していると予想した.この身体図式の破綻が幻肢を惹起させ,知覚-運動ループの整合性の破綻を助長させると考えた.加えて,過剰な感覚入力が末梢/ 中枢性感作を生じ,過剰な断端痛や幻肢痛を来たしていると推察した.</p><p>【目標設定】</p><p>本症例はhope としてポ- タブルトイレへの移乗自立を挙げていた.そこで,長期目標(3 週間)を移乗自立とした.また,短期目標(1 週間)は立位保持10 秒,見守りレベルでの起立/ 着座能力獲得とした.</p><p>【PT プログラム】</p><p>身体図式の是正を図るため先行研究を基に2 種類の介入を実施した.第一に,感覚識別課題(大住・他;2012)として,断端部の触圧覚の部位の識別,視認を繰り返した.第二に,段階的運動イメージプログラム(Moseley, 2006)を実施した.尚,メンタルローテーション課題は可能であったため,運動イメージ課題とミラーセラピーのみ実施した.また,通法の理学療法を実施する際には,視覚的フィードバックを増加させるよう姿勢鏡を用いた環境調整を実施した.</p><p>【最終評価(X +65 日)】</p><p>疼痛評価:部位;(1)断端部,(2)幻肢(断端より3cm,テレスコーピング現象は軽減),性質;締め付けられる,VAS;安静時0/ 動作時(1) 30,(2) 10.触覚;左右差なし,位置覚;軽度鈍麻.筋力;上下肢3/3,体幹3.立位保持時間;30 秒(片手支持).移乗動作:自立;幻肢の軽減により骨盤前傾の促しが可能,体幹の伸展が得られる.また,患側股関節の伸展が可能となり,前方への重心移動や方向転換が自立となった.mFIM;57 点.</p><p>【考察】</p><p>幻肢は四肢切断後の80%以上に生じ,ADL 獲得の阻害要因とされている.本症例は幻肢により重心移動が困難となり、移乗動作に介助を要していた.そこで,まずは目視下で感覚識別課題を行い感覚情報と視覚情報の不一致の是正を図った.そして,感覚情報の統合と同時に段階的運動イメージプログラムを用いたニューラルネットワークの再構築を図り,知覚-運動ループの是正および身体図式の回復の促進を行った.その結果,幻肢が短縮し,さらに右下肢や骨盤の前傾運動が改善され重心のコントロールが改善されたことで,移乗動作の獲得へ繋がったと考える.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本報告はヘルシンキ宣言に基づいており,対象者に十分な説明を行い,同意を得た.本演題発表に際し,開示すべき利益相反はない.</p>
収録刊行物
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- 九州理学療法士学術大会誌
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九州理学療法士学術大会誌 2021 (0), 30-30, 2021
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390853908023049344
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- NII論文ID
- 130008154623
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- ISSN
- 24343889
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可