上腕骨外科頚骨折により肩峰下インピンジメントが生じた1 例

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抄録

<p>【症例紹介】</p><p>60 歳代男性。右利き。転倒し左肩を強打。外側後方に軽度の脱臼を伴う左上腕骨外科頚骨折(Neer 分類2-part 骨折)と診断された。受傷日より三角巾とバストバンドにて固定し、受傷後8 日目に髄内釘固定法による骨接合術を施行された。その際三角筋、棘上筋は侵襲を受けた。術後1 日目より理学療法士介入しCodman 運動を開始。術後13 日目に自宅退院。術後2 週目に肩関節他動運動、術後4 週目より自動運動・抵抗運動を開始した。</p><p>【評価とクリニカルリーズニング】</p><p>術後4 週目の評価時の主訴は「手を上げると痛い」であった。左肩関節前外側の鋭痛であり、Numerical Rating Scale( 以下NRS) は4 だった。範囲は限局的で、挙上時の鋭痛であることから機械的ストレスによる疼痛と仮説を立てた。疼痛は再現性があり、red flag やyellow flag は疑われないため理学療法適応と判断した。視診では胸椎後弯、翼状肩甲を認めた。円背姿勢は肩甲胸郭関節の機能を妨げる要因となるため、肩甲帯全体の筋力評価を実施した。徒手筋力検査は菱形筋2、前鋸筋2 でありその他は概ね3 ~ 4 であった。腱板機能検査は棘上筋2、小円筋2、棘下筋2、肩甲下筋3 であったが、肩甲骨を徒手的に固定すると筋出力は全体的に3 へ向上した。これらの筋収縮では痛痛は認めなかった。その為、腱板は侵襲や不動による廃用と、肩甲骨の不安定性により機能低下が生じていると考えた。次に左肩関節自動屈曲は95°にて主訴と同部位に鋭痛が生じたが、筋力評価にて収縮時痛は認めない為、非収縮性組織に問題があると考えた。触診では骨頭の前上方偏位を認めた。関節副運動検査では骨頭の背側滑りに低可動性を認めた。試験的介入として、骨頭を徒手的に背側方向に誘導した状態で自動屈曲を行うと疼痛はNRS2 へ軽減し105°まで改善が得られた。同様に骨頭の偏位を徒手的に修正しながら他動屈曲を実施すると、自動屈曲の105°を超えて110°まで挙上出来たが、肩関節近位外側の腋窩神経皮枝領域に疼痛が出現した。性質は鈍痛でNRS3 であり、後方関節包が伸張される外転、2nd 及び3rd 内旋の他動最終域でも同領域に疼痛を認めたことから、拘縮した後方関節包の伸張ストレスによる関連痛と考えた。受傷時に後方関節包が損傷し、炎症と不動によって線維化した影響と考えた場合、骨頭偏移の原因に後方関節包の拘縮があるという所見として矛盾しないと考えた。以上のことから、自動屈曲時の疼痛は腱板および肩甲胸郭関節の機能低下に加え、後方関節包の拘縮により骨頭偏位が生じたことで、機械的ストレスとして肩峰下インピンジメントが生じたと推察した。</p><p>【介入内容および結果】</p><p>外来理学療法は1 週間に2 回の頻度で実施した。まず後方関節包の拘縮改善が必要と考え、初期は関節モビライゼーション、肩甲上腕関節周囲組織の他動ストレッチを実施した。可動域の改善に合わせて腱板と肩甲胸郭関節の機能訓練を並行して実施し、自主訓練も指導した。それにより術後15 週目の評価時は自動屈曲135° ( 健側140° ) へ改善し疼痛は消失した。</p><p>【結論】</p><p>肩峰下インピンジメントは様々な原因で生じると言われている為、評価に基づいた推論が重要と考える。本症例はクリニカルリーズニングにより、腱板と肩甲胸郭関節、後方関節包の問題をとらえてアプローチした事で、肩峰下インピンジメントが改善し可動域の向上に繋がったのではないかと考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>症例には本報告の趣旨を十分に説明し同意を得たうえで、当院の研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号学21-0408)。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390853908023050880
  • NII論文ID
    130008154726
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2021.0_50
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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