右延髄外側梗塞によりlateropulsion を呈した一症例

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  • 歩行獲得に向けた取り組み

抄録

<p>【はじめに】</p><p>今回,右延髄外側梗塞によりWallenberg 症候群を呈した症例を経験した.Wallenberg 症候群に含まれるlateropulsion( 以下,LP) は体軸の偏倚が生じ,一側へ身体が傾斜する症状である.本症例は座位,立位でLP を認め歩行障害を呈していた.今回,症例に対し歩行の再獲得を目的に理学療法を実施し,LP の改善から歩行獲得に至った為,経過を踏まえて報告する.</p><p>【症例紹介】</p><p>年齢:70 歳代前半.性別:男性.診断名:アテローム血栓性脳梗塞( 両側小脳半球,右延髄外側部).既往歴:高血圧症,高脂血症.現病歴:X-2 日午前に眩暈,嘔吐出現.X 日症状は持続.右顔面・左半身の感覚異常を訴え,急性期病院へ搬送.頭部CT にて両側小脳半球,右延髄外側部に梗塞巣を認め,保存療法施行.X+29 日リハビリ継続目的にて,当院回復期病棟へ転院.</p><p>【X+29 日入院時評価】</p><p>前庭症状:頭位変換時の眩暈・眼振有.感覚検査:左下肢の表在感覚異常(痺れ).右顔面・左上下肢の温痛覚は中等度鈍麻.MMT:右下肢4 左下肢4 体幹4.BBS:26/56 点.SARA:13/40 点.躯幹失調ステージ:III.BLS:1/17 点.FACT:14/20 点.右下肢,体幹の運動失調あり.姿勢観察:座位,立位時に体幹右側傾斜,右側へ重心偏倚.基本動作:寝返り,起き上がり自立,起立動作は物的把持にて監視.歩行:歩行器使用し後方より中等度介助.常に足元を注視.右初期接地期は足関節軽度底屈位にて接地,荷重応答期以降は下腿前傾の減少を呈し,足関節ロッカー機能の破綻による推進力の低下を認めた.また立脚中期から立脚後期にLP,右側方への骨盤動揺を認め,代償的な体幹前傾を認めた.</p><p>【介入方法】</p><p>先行研究より「運動学習の開始( 認知段階) では口頭指示と視覚的フィードバックの併用が有用である」とされており,以下の介入方法を通常理学療法と併用して実施.(1)視覚的フィードバックを促す目的で姿勢鏡を使用した重心移動練習,ステップ練習 ( 介入期間:X+35 ~ 60 日).(2)感覚障害・運動失調に伴う協調運動の再学習を目的に体幹下部及び右大腿部に弾性バンドを装着し触圧覚入力を増強した歩行練習 ( 介入期間:X+35 ~ 48 日).</p><p>【X+60 日評価】</p><p>前庭症状:頭位変換時の眩暈・眼振は軽減するも持続.感覚検査:左下肢の表在感覚異常(痺れ)は残存.右顔面・左上下肢の温痛覚は軽度鈍麻.MMT:右下肢4 左下肢4 体幹4.BBS:42/56 点.SARA:12/40 点.躯幹失調ステージ:II.BLS:1/17 点.FACT:14/20 点.右下肢,体幹の運動失調は持続.姿勢観察:座位,立位で体幹右側傾斜は軽減.基本動作:自立.歩行:歩行補助具使用し自立.右初期接地期より踵接地し,右荷重応答期以降の下腿前傾が改善.立脚中期から立脚後期のLP は改善したが右側方への骨盤動揺は軽度残存.前方への推進力向上を認めた.その後X+138 日に独歩獲得,自宅退院に至った.</p><p>【考察】</p><p>姿勢鏡を用いた事で,視覚と体性感覚の統合により身体図式が形成されLP の改善,歩行の獲得に繋がったと考える.弾性バンドによる固有感覚入力を持続的に行った事で,前庭神経核や橋・延髄網様体の興奮が体幹筋,膝関節伸筋の抗重力伸展活動を促通し,歩行時の推進力が向上したと考える.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に基づき,患者に十分に説明し同意を得た.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390853908036547840
  • NII論文ID
    130008154614
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2021.0_125
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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