脊髄損傷後の不全損傷患者に対して電気刺激と起立訓練の併用により機能回復を認めた一症例

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抄録

<p>【はじめに】</p><p>今回、脊髄損傷患者を担当した。本症例は重度の対麻痺、感覚障害、膀胱直腸障害を発症し、下肢の回復は予後不良の可能性が高いと考えられた。その症例に対して電気刺激と起立訓練を併用した結果、下肢機能の改善を認めた為、考察を踏まえて報告する</p><p>【症例紹介】</p><p>60 代後半 男性 身長170 ㎝台 体重90 ㎏台 診断名: 脊髄損傷(Th10 以下) 現病歴:20XX 年5 月頃より両下肢の痺れ、歩行障害が出現し8 月に受診。後縦靭帯骨化症と診断。右下肢優位の不全麻痺、両下肢の感覚障害、膀胱直腸障害出現。Th2.3.4 椎弓切除、C3-Th6 後方固定術施行。術後、両下肢麻痺は悪化。継続リハビリ目的で10 月当院へ入院。社会的情報: 受傷前ADL 自立</p><p>【初期評価】</p><p>Frankel:A Zancolli:C8B II ASIA 運動スコア:50/100( 上肢50 下肢0)MMT: 体幹: 屈曲1 伸展1 回旋1 下肢: 左/ 右 股関節: 屈曲0/0 伸展0/0 外転0/0 内転0/0 外旋0/0 内旋0/0 膝関節: 屈曲0/0 伸展0/0 足関節: 底屈0/0 背屈0/0 MAS: 体幹0 下肢1 感覚障害: 表在感覚、深部感覚ともに両側下肢は脱失。HDS-R:30/30 FIM:53/126 基本動作は全介助。移乗は2 人介助。</p><p>【方法】</p><p>両下肢に長下肢装具を装着し、左右の大腿直筋への電気刺激を加えながら平行棒内で起立訓練を実施。機器は伊東超短波ES-320 使用。パルス幅は200 μsec、周波数は40~50Hz、CONSTANT モードで起立訓練中に約30 分実施。</p><p>【経過】</p><p>2 か月経過時、両大腿直筋で筋収縮が認められる。4 カ月経過時、表在、深部感覚ともにわずかに改善。また長下肢装具を外した状態で介助での立位保持が可能となったが膝折れが著明にみられた。5 カ月経過時、股関節屈曲、膝関節の屈曲、伸展はMMT3 に改善。また平行棒内で立位時の膝折れの軽減が図れた。6 カ月経過時、リハビリの継続を希望され、老健へと入所となった。</p><p>【最終評価】</p><p>Frankel:C Zancolli :C8B II ASIA 運動スコア72/100( 上肢50 下肢22)MMT: 体幹:屈曲3 伸展3 回旋3 下肢: 左/ 右 股関節: 屈曲3/3 伸展2/2 外転3/3 内転3/3 外旋1/1 内旋1/1 膝関節: 屈曲3/3 伸展3/3 足関節: 底屈2/2 背屈2/2MAS: 体幹0 下肢1 感覚障害: 表在感覚、深部感覚ともに両側下肢は重度鈍麻。HDS-R:30/30 FIM:78/126 起居動作、座位自立。移乗動作見守り。</p><p>【考察】</p><p>山口らは電気刺激は随意的な運動や動作を組み合わせることで麻痺の回復を促進させる。また末梢神経からの感覚入力のみならず、同時に皮質興奮性を高めるような運動や課題を組み合わせることが脊髄可塑性と運動機能回復には重要であると述べている。今回、CONSTANT モードによる持続的電気刺激下での起立訓練を実施した。持続下での電気刺激を実施することで運動を誘発させる刺激を向上させることが可能となった。さらに持続的電気刺激下での起立訓練を行うことで足底からの末梢神経への感覚入力の賦活や反復した動作による皮質興奮性の向上が図れ、電気刺激と起立訓練による相乗効果により運動機能の回復へ繋がったと考える。また刺激部位に関しては大腿直筋で実施した。起立動作での大腿直筋は離殿相~ 伸展相にかけての広い範囲で収縮が必要とされており、また安達らは大腿直筋は起立動作再建時に制御されなければならない重要な筋であると報告している。早期に電気刺激を加えることで筋委縮を予防しながらの筋力増強が図れ、神経筋再教育や起立時の膝折れの軽減にも繋がった。以上のことから不全損傷患者へ対しての電気刺激と起立動作の併用によって機能改善への効果はあったと考える。今回の経験を今後の臨床の現場でも活かしていきたい。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言を厳守し、患者家族に本報告の趣旨を説明し同意を得た。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390853908042770432
  • NII論文ID
    130008154572
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2021.0_103
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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