四国南西部,足摺岬周辺における海成段丘のpIRIR年代測定

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  • pIRIR dating of marine terraces around Ashizuri cape in southwestern Shikoku

抄録

<p>Ⅰ.はじめに</p><p>四国や紀伊半島の太平洋岸においては,南海トラフ北側に近接することから海成段丘が注目されてきた.これまでの研究では,海成段丘の離水年代を明らかにするために,段丘砂礫層や被覆層から指標テフラを見出すことによって議論されてきた場合が多い.しかし一方で,指標テフラが発見されない地域では,段丘地形の新旧関係によって離水年代が推定されており,南海トラフ北側沿岸部の海成段丘群は地域ごとに離水年代の推定精度に大きな差がある.したがって,四国から紀伊半島にかけての中期更新世以降の陸域沿岸部の地盤運動について,より狭い地形単位ごとに精度よく明らかにするためには,従来とは異なる手法による海成段丘の編年が必要である.そこで本研究では,今後広域で海成段丘の詳細な地形発達史を明らかにするための基礎研究として,既に鍵層が発見されている四国南西部,足摺岬周辺の海成段丘を対象にルミネッセンス年代測定法によって編年を試みることを目的とする.</p><p></p><p>Ⅱ.地域概要</p><p>本研究で対象とする足摺岬周辺は,四国太平洋側では室戸岬周辺に並び海成段丘の発達が良い地域である.足摺岬周辺では,3~4面の海成段丘が分布している(太田・小田切,1994;小池・町田,2001).足摺岬周辺地域の海成段丘は,下位からM面,H2面,H1面として区分されている(小池・町田,2001).満塩ほか(1989)は,土佐清水市街地におけるM面の海成層に含まれる貝化石から約138 kaというアミノ酸ラセミ化年代値を報告した.さらに本地域では,四万十川左岸のM面における海成層を覆う砂丘砂中より,鬼界葛原(以下,K-Tz;約95 ka; 町田・新井,2003)テフラが見出されている(太田・小田切,1994).したがって,本地域におけるMIS 5eの既存の段丘対比は比較的信頼性が高いとされている(小池・町田,2001).</p><p>足摺岬北西の土佐清水市中浜では,標高約30~40 m付近に広い波食棚性の海成段丘面(M面)が分布し,K-Tzテフラが見いだされている段丘面との地形的特徴の類似性・連続性などからMIS 5eに離水したと考えられている.本地域では一般に,基盤岩の砂岩上に層厚約2 mの海成砂礫層が載り,薄い土壌を除き被覆層は認められない.試料採取地点では,層厚5 m以上の淘汰の良い円・亜円礫からなる海浜性の砂礫層が認められ,小規模で局所的な埋没谷を海成層が埋めている.</p><p></p><p>Ⅲ.pIRIR年代測定方法</p><p>ルミネッセンス年代測定法の中でも既に一般化している石英のOSL 年代測定では,OSL信号が約200 Gy で飽和することが知られており,日本ではMIS 5 以前の堆積物への石英のOSL 年代測定法の適用は困難である.そこで本研究では,より古い時代の堆積物に適用が可能とされる,elevated temperature post-IR IRSL (以下,pIRIR;Buylaert et al., 2009)年代測定法を適用した.pIRIR強度の測定は三重大学生物資源学部のRISOE,DA-15 を使用した.</p><p></p><p>Ⅳ.結果とまとめ</p><p>足摺岬北方,中浜におけるM面の海成段丘を構成する海成層のpIRIR年代測定結果は,MIS 5e頃の年代値を示した.以上の結果は,M面がMIS 5eに離水したことを直接的に示すものであり,既存の独立年代指標と整合的であるといえる.今後,四国から紀伊半島の太平洋側沿岸部における鍵層が見いだされていない海成段丘においても,本手法が効果的に適用可能であることが期待できる. </p><p>なお本研究は,令和2年度及び令和3年度原子力施設等防災対策等委託費(宇宙線生成核種を用いた隆起海岸地形の離水年代評価に関する検討)事業の一部として行われた.</p><p></p><p>引用文献:Buylaert et al. (2009) Radiation Measurements, 44, p560-565.;小池・町田(2001)『日本の海成段丘アトラス』東京大学出版会.; 満塩ほか(1989) 高知大学学術研究報告,自然科学, 38, p63-72.; 町田・新井(2003)新編 火山灰アトラス.東京大学出版会,36.;太田・小田切(1994)地学雑誌,103,p243-267.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390854717706807936
  • DOI
    10.14866/ajg.2022s.0_146
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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