過疎地域にける自然環境の保全・活用に関する住民意識

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タイトル別名
  • Resident consciousness of conservation and utilization of the natural environment in depopulated areas
  • Case of Kaida Plateau, Nagano Prefecture
  • 長野県開田高原の事例

抄録

<p>1.はじめに</p><p> かつての農山村では,身近な自然環境を巧みに利用した暮らしが営まれ,その結果として生物の多様性も維持されてきたと考えられる。しかし,雑木林や採草地の利用が著しく減少した現在では,生物の多様性が劣化し,獣害や景観の面でも問題が生じており,その対策が求められている。過疎化・高齢化が進む多くの地域では,住民だけでなく地方自治体も人的,財政的に余裕がなく,自然環境保全に関する問題の単独解決は難しく,観光や教育,地域づくりなど他分野との連携が不可欠であり,住民自らが担い手となって取り組むことが期待されている。</p><p> 本研究では,人口減少が進む過疎地域ではあるが,自然環境を活かした観光地としてのポテンシャルを備えた長野県木曽町開田高原を事例に,自然環境の保全と活用に関する住民意識を調査したので,その結果の一部を紹介する。</p><p>2.対象地域の概要</p><p> 開田高原地区は,2005年に4町村が合併する前の旧開田村に相当し,面積は約150km2,人口は1,449人(2020年)であり,2005年から2020年までの人口減少率は約25%である。高齢化率は約45%,就業者数は農業・林業,宿泊業・飲食業の順に多い。主な観光資源としては御嶽山の眺望や「木曽馬の里」が知られている。</p><p> 開田高原はかつて木曽馬の産地として知られ,馬の餌を採るための広大な草地で火入れ(野焼き)が行われてきた。現在では,馬飼育の衰退とともに採草地としての利用はほとんどなくなったが,集落周辺の斜面や放棄地などの一部で火入れが継続されている。火入れされた草地では,草花が咲き,美しい農村景観の形成に寄与しており,全国的に希少な昆虫の生息地ともなっている。開田高原の生物多様性の高さには伝統的な火入れと草刈りの継続が寄与しているとの指摘もあり,このような草地の復活を目指して草刈りやニゴ(干し草を作るために刈った草を一時的に積み上げたもの)作りの活動が移住者や地区外居住者らを中心とするグループによって数年前から試みられている。</p><p>3.調査方法の概要</p><p> 開田高原の自然環境の保全・活用に関する住民意識アンケートを2021年11月に実施した。調査内容は,開田高原の自然,木曽馬と草地,その保全と活用等についてである。調査票は木曽町役場開田支所の協力を得て地区内全622世帯に配布した。回収率は39%であった。</p><p>4.調査結果の概要</p><p> 開田高原の自然に対する問題として,森林の手入れ不足や農地の耕作放棄が多く挙げられたが,野生鳥獣被害は60代以上で,気候変動は若い年代ほど多いなど,年齢層による問題意識の違いが明らかとなった。</p><p> 木曽馬やニゴに対する親近感は木曽馬飼育やニゴ作りの経験者で高い傾向が見られ,火入れ・草刈り・ニゴ作り等が地域の文化であるとの認識も同様の傾向が見られた。火入れの継続に対しては,年齢が高いほど,また,女性より男性の方が必要と認識している傾向がみられた。</p><p> 今後の保全・活用に対しては,エコツーリズムなど自然保護と地域振興が両立する仕組みを考えるべきとの回答が半数を超えたが,年齢等による明確な違いは見られなかった。保全・活用の主体としては,自治会や農協・森林組合など地域の団体が担うべきとの回答が多く見られた。草地再生活動への協力に対しては,女性より男性,また,年齢が低いほど肯定的であったが,高齢のために協力できないとの回答も多くみられた。</p><p>5.おわりに</p><p> 開田高原の自然環境に対する住民の意識は,年齢や木曽馬の飼育経験等によって違いがみられた。開田高原の現在の豊かな自然は,木曽馬飼育とともに育まれてきたものであり,地域の自然的・文化的特徴を活かした持続可能な地域づくりを考える際には木曽馬やニゴが重要なキーワードになると考えていたが,若年層ではあまり親しみを感じていないことが明らかとなった。過疎化・高齢化が進む現状の中で自然環境の保全と活用を進めるには,若年層の取り込みと,高齢者の知識と経験の継承が必要であると考えられた。(本研究は,(一財)長野県科学振興会の助成を受けて実施したものである。)</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390854717706820224
  • DOI
    10.14866/ajg.2022s.0_57
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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