シンガポール総選挙における選挙区割と集団選挙区

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タイトル別名
  • Electoral Boundaries and Group Representation Constituencies in Singapore’s General Elections
  • : A Case Study of Sengkang Group Representation Constituency in the 2020 General Election
  • ―2020年総選挙におけるセンカン集団選挙区を事例に―

抄録

<p>Ⅰ.研究の背景と目的 シンガポールでは独立(1965年)以来、人民行動党(PAP: People’s Action Party)が国会において9割以上の議席占有率を保持してきたが、総選挙における得票率は6~7割に留まる。この非比例性の一因として、各政党が1選挙区につき3~6人の候補者グループを擁立し、最多得票の政党が当該選挙区の割当議席を総取りする仕組みである集団選挙区(GRC: Group Representation Constituency)制と、このGRCを中心とした選挙区割の変更が挙げられる。GRCは、従来の選挙制度である1区1人選出の単独選挙区(SMC: Single Member Constituency)と並存して1988年に導入され、1997年以降は総議員数の8~9割を選出する重要な制度となっている。なお選挙区割は、首相によって指名される選挙区割検討委員会(EBRC: Electoral Boundaries Review Committee)が各回の総選挙に先立って改訂を行っている。 これまで複数の候補者を揃える必要があるGRC制は、人材が乏しい野党にとって不利であるとの指摘がなされてきたが、2020年総選挙においては野党が初めて2つのGRCで勝利を収めた。そこで本報告では、シンガポール総選挙において選挙区割が選挙結果に及ぼす影響を検討するために、GRCを中心に過去の選挙区割の変更パターンを整理し、野党が勝利したセンカンGRCを事例に取り上げて考察を行う。</p><p>Ⅱ. 選挙区割の変更パターン  GRCは導入当初、1区あたりの定員が3人であったが、1991年には4人、1997年には5~6人と定員の増加傾向が見られ、これに伴ってGRCの選挙区割も拡大した。一方、過度なGRC制に対する批判が高まり、2015年以降は1区あたりの定員を減らすために、SMCを含めて以下の類型化に基づく選挙区割の変更が見られるようになった。 ①変更なし:直近の総選挙で野党が勝利した選挙区の区割は変更しない。(例)ホウガンSMC、アルジュニードGRC ②隣接選挙区との調整:域内の人口動態に対応して、隣接する選挙区との境界線を調整。(例)ウエストコーストGRC ③SMCのGRCへの統合:与党得票率の低いSMCをGRCに統合。(例)ジューチャットSMC、フェンシャンSMC ④GRCからのSMCの分離:与党得票率の高いGRCの一部をSMCとして分離。(例)イオチュカンSMC、ケブンバルSMC</p><p>Ⅲ.2020年総選挙におけるセンカンGRC センカンGRCは、2020年にシンガポール北東部に新設された4人選出の選挙区であり、センカンウエストSMCの拡大(一部区域はアンモキオGRCに編入)、プンゴルイーストSMCの統合、パシリス・プンゴルGRCの一部区域の分離という、前述の変更パターンの中で②、③、④の特徴を併せ持つ。  センカン地区は、北東部における代表的なニュータウンであり、高齢の親と幼い子どもを持つ「サンドイッチ世代」と呼ばれる30~40代の若年層家族の居住が多い。  2020年総選挙において、PAPは隣接GRCから閣僚大臣を鞍替えさせ、ベテラン議員を中心としたグループを擁立したが、最大野党の労働者党(WP: Workers’ Party)から立候補した新人グループに敗北した。</p><p>Ⅳ.選挙区割の選挙結果への影響と今後の展望  センカンGRCでの勝敗につき、同地域の住民構成が野党得票につながったとする分析もある一方で、センカンGRCに隣接し同様の住民構成を有するプンゴルウエストSMCにおいてはPAPが勝利しており、選挙区の地域差が選挙結果に影響を及ぼすという単純な帰結は導くことができない。しかし同じく北東部のホウガンSMCやアルジュニードGRCではWPが勝利を継続させており、選挙地盤としての確立が見られた。 2011年総選挙以降、シンガポールの政局が変動期を迎え、野党がGRCにおいても与党と互角に競争できるようになる中で、今後の選挙区割として、GRCの平均定員減少(4人制GRCの増加や3人制GRCの再誕)、およびSMCの増加が予想される。また野党の選挙地盤が隣接選挙区の選挙結果に及ぼす影響の検討が必要となるだろう。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390854717722285312
  • DOI
    10.14866/ajg.2022s.0_225
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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