認知リハビリテーションから見る高次脳機能障害支援の拡大と深化

Abstract

<p>高次脳機能障害のリハビリテーション,すなわち,認知リハビリテーション(認知リハ)の歴史は,第一次世界大戦下のドイツで銃創兵士に試みられた視覚認知障害の治療にまでさかのぼることができる。その後,外傷性脳損傷や脳血管障害等による高次脳機能障害を対象とした治療プログラムが欧米各国で考案され,1980年代半ばから1990年代初頭にかけた学術誌The Journal of Cognitive RehabilitationならびにNeuropsychological Rehabilitationの創刊を経て,認知リハは神経心理学の専門分野の一領域として確立された。この時期には,障害された認知機能に直接的に働きかける直接訓練と,障害された機能を代償する補償訓練の2つが認知リハの主要なアプローチであった。一方,我が国においては,1990年代後半から認知リハに対する関心が徐々に高まり,2001年に始まった厚生労働省の高次脳機能障害支援モデル事業を契機として,高次脳機能障害の診断基準や標準的な訓練プログラムが作成され,支援体制の整備と充実がはかられるようになった。そして,それから20年を経た現代の認知リハでは,電気通信技術,仮想空間技術,脳活動測定技術など,急速に発展する先端技術の導入,認知行動療法に代表されるさまざまな臨床心理学的技法の適用,障害当事者の主観的体験に踏み込んだ現象学的な症状理解など,高次脳機能障害に対する治療的アプローチが多様化かつ深化している。さらに,昨今では,注意,記憶,遂行機能といった認知機能に加え,従来の認知リハではあまり扱われることがなかった情動機能や社会的機能についても,リハの対象として積極的に取り上げられるようになり,支援の対象者も障害当事者のみならず,家族や関係する他の専門職など患者をとりまく支援者にまで拡大している。本企画では,成熟期を迎え,新展開をみせている認知リハの先進的なテーマや取り組みについて4つの話題提供をおこない,おのおのの可能性と課題について考えていきたい。あわせて,心理職の国家資格が誕生した今,高次脳機能障害の臨床に心理学がどのように貢献できるのか,心理職ならではの認知リハのアプローチとは何かについて議論することを通して,諸外国に比べて圧倒的に遅れている当該領域への心理職の参画に関する議論の活性化をはかりたい。</p>

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