Strung between worlds apart:

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タイトル別名
  • A lyrical moment in <i>A Room Where the Star-Spangled Banner Cannot Be Heard</i>
  • A lyrical moment in <i>A Room Where the Star-Spangled Banner Cannot Be Heard</i>

抄録

<p> 「日本語で書く作家」として名をなす以前、リービ英雄は『万葉集』をはじめとする日本文学の研究と英訳に携わっていた。彼のそうした過去は、後の創作との関連で重視されてきたものの、その内実が踏み込んで問われることはなかった。一方、リービ自身は作品とエッセイ等において、かつて作成した訳詩の引用等を通じて、新たな世界を日本語の読 者に垣間見せていると言える。本論文では〈抒情〉という、リービの『万葉集』研究とデビュー小説「星条旗の聞こえない部屋」(1987)にまたがる概念を主軸に据えつつ、研究、翻訳および創作の間で緊張感が醸成される現場を検討し、その意義を考察する。</p><p> 先ず、リービの博士論文『人麻呂と日本の抒情性の誕生』(1984)における〈抒情〉を検討しているマイケル・スギモト(2002)の議論を批判的に検討し、リービの詩作品分析において〈抒情〉が修辞的な技巧を特徴とするものであることを確認した上で、その一要素である〈抒情的構造〉の具体相に焦点を当てる。</p><p> 次に、‘exceedingly lyrical’という二語に強調を加えた、三島由紀夫の美学をめぐるリービのエッセイ「セイレンの笑い声」(1988)を紹介し、そのエッセイと連続している「星条旗の聞こえない部屋」開幕の一場面にも、〈抒情的構造〉が重要な役割を果たしていることを明らかにする。</p><p> リービは、彼自身が日本文学研究者として培い、実際に英文でなしていた詩論を、作家としての出発を象徴する基軸的な場面に埋め込んだ。それは、自らの生きた現実を、日本語で築かれる彼の文学の世界に託することを意味する。デビュー作のこのような試みは、その以後の創作の総体を、彼の個別的な過去と日本語そのものとの間で浮遊する位相に射止める効力を放ちつづけているのである。本論は、万葉研究と創作との接点をそのデビュー作に探り、リービ英雄の文学の独特な緊張感の発生源を明らかにする。</p>

収録刊行物

  • 比較文学

    比較文学 61 (0), 272-253, 2019-03-31

    日本比較文学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390854717776789248
  • DOI
    10.20613/hikaku.61.0_272
  • ISSN
    21896844
    04408039
  • 本文言語コード
    en
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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