北アルプス南部、滝谷花崗閃緑岩に産するジルコンのカソードルミネッセンス測定

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  • Cathodoluminescence measurements of zircons from the Takidani granodiorite in the Northern Alps.

抄録

<p>はじめに</p><p>カソードルミネッセンス(CL)は、対象鉱物の微量不純物、格子欠陥、結晶歪を高空間分解能で解析できるため、地球科学の分野では、続成作用や後背地解析、さらには変成作用の解析などさまざまな面で利用されている。その中、ジルコンのCLは、成長ドメインごとに異なる特性を示すことが知られており、U–Pb年代測定技術の発展と普及に相まって年代学分野では切り離すことのできない手法の1つとなっている(e.g., Corfu etal.,2003; Grant et al., 2009)。しかし、CL特性が生じる具体的な要因やメカニズムについては不明な点が多い。火成起源ジルコンが示すカラーCL像は、一般に結晶化した年代が古いものほど黄色発光を示す。一方、何もドープしていない合成ジルコンのカラーCL像は、顕著な青色発光を示す。これらのことは、放射性核種からのα線放射による損傷の増加がCLの黄色発光を強める要因であることを示唆する(e.g., Finch et al., 2004; Tsuchiya et al., 2017)。しかし、放射線損傷の少ない天然ジルコンのCL特性を報告した例は少なく、ジルコン年代に応じた放射線損傷の増加もしくは減少がCL発光にどれだけ影響を与えているかはよく分かっていない。そこで本研究では、報告例が少ない若いジルコンのCL特性を明らかにするため、岐阜県および長野県県境の北アルプス南部上高地・西穂高岳周辺に産する滝谷花崗閃緑岩(2–1Ma: Sano et al., 2002; Ito et al., 2017)からジルコンを分離し各種測定を行った。</p><p>結果と解釈</p><p>・LA-ICP-MS U–Pb年代測定</p><p>滝谷花崗閃緑岩から抽出したジルコン(滝谷ジルコン)のU–Pb年代測定から、滝谷ジルコンは~65Maの年代を示すものと、2–1Maの年代を示すものがあることがわかった。前者の古い年代を示すジルコンについてはIto et al. (2017)も報告している。滝谷花崗閃緑岩の周囲には白亜紀花崗岩類が認められることから、滝谷花崗閃緑岩の元となったマグマの定置プロセスの際に周囲の白亜紀花崗岩類の同化作用で取り込んだ際に、混入したと考えられる。</p><p>・カラーCL像 </p><p>ジルコンのカラーCL像は、年代値の違いに関わらず同じ青色発光を示した。先行研究によるジルコンのCL特性結果(Tsuchiya et al., 2017)を考慮すると、2–1Maの若い年代を示すジルコングループは放射線損傷が少ないため、黄色発光の影響を受けず青色発光が強く反映され、一方、~65Maの古い年代を示すジルコングループは、700度以上でアニールされ放射線損傷が解消し青色発光を示したと考えられる(Tsuchiya et al., 2015)。</p><p>・スペクトル解析 </p><p>CLスペクトル分析の結果、グループごとに青色領域の強度差が生じていることが認められたが、スペクトルパターンに大きな違いは認められず、すべてのジルコンから紫外-青色領域に結晶成長時の際に生じる発光中心(Intrinsic emission)と、希土類元素(Dy3+、Er3+)を発光中心とする~480nmおよび~580nmと~405nmに鋭いピークが検出された。また、黄色領域に放射線損傷に帰属される発光バンドはほとんど認められなかった。これらのことより、カラーCL像観察で認められた顕著な青色発光は、Intrinsic emissionに起因することを示す。一方、グループごとに青色領域の強度差が生じる原因については、現時点ではよくわからないが、おそらくCL強度が温度によって大きく変化することに起因するのかもしれない。今後ジルコンの微量元素組成や角閃石組成などから滝谷花崗閃緑岩の温度圧力条件を推定し、若いジルコンのCL発光の特徴化を進め、ジルコン年代に応じた放射線損傷がCL発光に与える影響について議論する。</p><p>引用文献</p><p>Corfu et al., 2003, Reviews in Mineralogy and geochemistry, 53, 469-500. Finch et al., 2004, Journal of Physics D: Applied Physics, 37, 2795-2803. Grant et al., 2009, Chemical Geology, 261, 155-171. Ito et al., 2017, Scientific Reports, 7, (1). Sano et al., 2002, Journal of Volcanology and Geothermal Research, 117, 285-296. Tsuchiya et al., 2015, Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 110, 283-292. Tsuchiya et al., 2017, Geochronometria, 44, 129-135.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390855190129349888
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2021.0_191
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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