咬合干渉が咀嚼運動経路に及ぼす影響

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タイトル別名
  • Effect of occlusal interference on the masticatory movement path

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健常者の切歯点の咀嚼運動経路は,7種類に分類されること,また7種類のパターンの中で,咬頭嵌合位から作業側へ向かってスムーズに開口し,その後convexを呈して閉口するパターンIと咬頭嵌合位から非作業側に向かって開口後,作業側へ向かい,その後convexを呈して咬頭嵌合位へ閉口するパターンIIIが著明に多く,この2種類を代表的な正常パターンとみなせることが明らかにされている5).さらに,これらのパターンは主咀嚼側咀嚼時に多くみられ,非主咀嚼側咀嚼時ではそれ以外のパターンが増大すること,不正咬合の是正や総義歯補綴治療により正常のパターンに変化することなどから,咬合の関与により咀嚼運動が変化することが予想される. <br>そこで,本研究では,咬合干渉の付与により咀嚼時の運動経路が変化するか否かを明らかにするために,健常者の犬歯,あるいは第一大臼歯に100μmの実験的咬合干渉を付与し,付与前後の咀嚼運動をMKG(Mandibular Kinesiograph K-5)を用いて記録後,運動経路のパターン,運動経路と運動経路の安定性を分析した.その結果,運動経路のパターンの発現率は,干渉付与前では正常パターン(ⅠあるいはⅢ)が著明に高く,干渉付与後では正常パターンが低下し,それ以外のパターンが上昇した.運動経路を表す指標は,干渉付与前と付与後で有意に変化しなかったが,運動経路の安定性を表す指標は,干渉前に比べて干渉付与後に大きくなる傾向を示し,犬歯への干渉付与後の開口時側方成分と垂直成分,第一大臼歯への干渉付与後の開口時側方成分と閉口時側方成分において,干渉付与前後間に有意差が認められた. <br>咀嚼運動経路は,健常者では規則的で本研究のパターンⅠとⅢが多くみられるが,不正咬合者ではそれ以外のパターンがみられる1, 2, 8)こと,片側に交叉咬合を有する場合,非交叉咬合側では健常者と同様のパターンを呈するが,交叉咬合側では健常者と異なるパターンを呈する4)こと,不正咬合を是正すると健常者のパターンが増加する9)ことなどが報告されている.また,総義歯装着者では,治療前ではパターンⅠとⅢ以外のパターンがみられたが,治療後にはパターンⅠあるいはⅢに変化したと報告されている10).これらの結果は,運動経路のパターンに咬合が関与していることを示しているものと考えられる.本研究の結果では,干渉付与前の運動経路のパターンは,健常者のパターン(ⅠあるいはⅢ)が著明に多く,干渉付与後にそれらのパターンが減少し,それ以外のパターンが増加した.これらの結果は,運動経路のパターンに咬合が関与することを実証できたものと考えられる.またこれらは,咬合干渉があると,パターンⅠとⅢ以外の異常なパターンが出現することを示しているともいえる. <br>咀嚼時の運動経路は,健常者では安定しているが,不正咬合者や顎機能異常者では不安定である1, 8, 11, 12)こと,適切な咬合が付与されたと考えられる歯科補綴治療後に運動量が増大する3, 10, 12)ことが報告されている.これらの報告は,運動経路に咬合が関与する可能性があることを示唆するものと考えられる.本研究の結果,運動経路を表す開口量と咀嚼幅では,干渉付与後に有意に変化しなかったが,運動経路の安定性を表す各指標では,干渉前に比べて干渉付与後に大きくなる傾向を示し,犬歯への干渉付与後の開口時側方成分と垂直成分,第一大臼歯への干渉付与後の開口時側方成分と閉口時側方成分において,干渉付与前後間に有意差が認められた.これらの結果は,咬合干渉の付与により,咀嚼時の運動量は変化しないが,運動が不安定になることを示している.運動量に変化がみられなかった原因は不明であるが,本研究での干渉量が100μmと少なかったからかもしれない.しかしながら,わずか100μmの干渉でも咀嚼運動経路のパターンを変化させ,不安定になることがわかった.これは,咬合の重要性を示しているともいえる. <br>これらのことから,わずか100μmの咬合干渉でも咀嚼運動経路のパターンを変化させ,不安定になることが示唆された. <br><br> 注:本文中の文献番号は,英論文中の文献番号と一致する.

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