山口県北東部,長門峡断層のトレンチ調査(その1):トレンチ壁面観察結果

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  • Trench survey on the Chomonkyo Fault in northeastern Yamaguchi Prefecture (Part 1): Results of Trench Observations

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 山口県北東部には,迫田-生雲断層と徳佐-地福断層がNE-SW方向に並走する(佐川ほか,2008).山内・白石(2013)は,両活断層に挟まれた区間で,複数の沢・尾根の右屈曲等の断層変位地形をENE-WSW方向に連続的に確認し,新たな活断層として長門峡断層を抽出した.しかし,長門峡断層では断層露頭が確認されておらず,その性状や活動時期はほとんど明らかにされていない.我々は,断層破砕部性状を用いた断層活動性評価手法の確立を目的とした調査の一環として,山口市阿東生雲東分渡川の段丘上で長門峡断層を対象としたトレンチやボーリングを掘削した.本発表では主に,トレンチ調査で確認された複数の断層破砕帯や断層面,長門峡断層の活動時期について報告する.</p><p>2.断層破砕帯と未固結堆積物層の概要</p><p> トレンチ壁面下部に分布する基盤岩は溶結凝灰岩から構成され,北東壁面の中央部と南東部,南西壁面の中央部では,溶結凝灰岩起源の断層破砕帯が認められた(添付図).北東および南西壁面の中央部に認められる破砕帯は,長門峡断層のトレース上に位置し,その幅は0.7~1.3 m程度である.また,破砕帯を構成する断層ガウジは4枚のガウジ層からなる層状構造を有し,その4枚のガウジ層はそれぞれ,淡灰色や灰色,淡緑灰色,緑灰色を示す.北東壁面の南東部に認められる破砕帯は幅3~20 cm程度であり,断層ガウジやプロトカタクレーサイトから構成される.断層ガウジは主に白色を呈し,層状構造を伴わない.</p><p> 基盤岩の上位に分布する未固結堆積物層で14C年代分析やOSL年代分析を実施した結果,Ⅰ層(段丘礫層)上部で129 ± 18 ka,Ⅴ層(崖錐堆積物層)で6,945–6,797 cal BP,Ⅵ層(ローム層)で4,778–4,437 cal BPなどの年代値が得られた.また,Ⅱ層(湿地堆積物層)中には約13万年前に噴出したAso-3テフラ層が分布する.</p><p>3.断層面の性状</p><p> 断層面は上述の断層破砕帯沿いや,その断層破砕帯の上位で認められる(添付図).北東および南西壁面の中央部に認められる複数の断層面は,未固結堆積物層を剪断・変形させていることから,第四紀以降に活動したもの(本論では,活断層面と呼ぶ)であり,横ずれ断層に特徴的な花弁構造を6ヶ所で形成している.これらの活断層面のうち,南西壁面で最も連続するものは,現世土壌のⅦb層直下まで剪断する唯一の活断層面であることから,長門峡断層の最新滑り面であると判断した.この最新滑り面の走向・傾斜はN70~80°E・82° NW~78° SEである.さらに,北東壁面の下部から上部にかけて最も連続する活断層面は,その分布位置や分布形態(花弁構造を伴う),走向・傾斜(N71~72°E・70~86° NW)が,南西壁面の最新滑り面のそれらと酷似していることから,南西壁面の最新滑り面の延長部,つまり最新滑り面であると判断した.両壁面の最新滑り面上に分布する条線のレイク角は10° NEであり,長門峡断層が横ずれ主体の運動センスであることを示す.この運動センスは最新滑り面を含む活断層面が花弁構造を形成していることと矛盾しない.</p><p> 北東壁面の南東部に認められる断層面はⅠ層に覆われ,上位の未固結堆積物層に変位を与えていないことから,第四紀以降に活動していない断層面(非活断層面)である可能性がある.この断層面は断層ガウジとプロトカタクレーサイトの境界に分布し,走向・傾斜はN42~50°E・50~53° SEである.また,断層面上の条線のレイク角は82° SWであることから,縦ずれ主体の運動センスを示し,長門峡断層の横ずれ主体の運動センスと一致しない.</p><p>4.活動時期と活動間隔</p><p> 花弁構造を構成する活断層面と未固結堆積物層との剪断・被覆関係等からイベント層準を認定した結果,長門峡断層は約13万年前以降から約6,800年前以前の間に少なくとも2度活動した後,約4,500年前以降に2度活動したことが確認された.このことから,長門峡断層の約6,800年前以前の活動間隔は約4,500年前以降のそれに比べ長かった可能性があげられるが,本断層は横ずれ主体であるため,トレンチ壁面から全てのイベントを抽出できていない可能性がむしろ高いと考えられる.</p><p>謝辞</p><p> 本研究の内容は,14C年代分析やOSL年代分析を除き,電力委託研究「破砕部性状等による断層の活動性評価手法の高度化に関する研究(フェーズ2)」によって行われた研究成果の一部である.ここに記して感謝の意を表する.</p><p>引用文献: 1) 佐川ほか,2008,応用地質,49,78‒93.2) 山内・白石,2013,立命館地理学,25,15‒35.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390855190137437696
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2021.0_140
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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