亜ヒ酸による血管内皮細胞の活性イオウ分子産生酵素cystathionine γ-lyaseの発現誘導
書誌事項
- タイトル別名
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- Arsenite induces expression of a reactive sulfur-producing enzyme cystathionine γ-lyase in cultured vascular endothelial cells
抄録
<p>【目的】ヒ素は世界中に広く存在する環境汚染物質であり,その慢性的な曝露は動脈硬化症などの血管病変発症のリスク要因になる。ヒ素の血管における毒性発現に活性酸素種(ROS)の産生促進が関与していることが知られている。近年の研究により,ROSに対する防御作用を有する生体内物質として活性イオウ分子種(RSS)が注目されている。本研究では,血管のヒ素曝露に対する防御応答におけるRSSの役割を明らかにするため,ヒ素が血管内皮細胞のRSS産生酵素の発現に与える影響を検討した。</p><p>【方法】コンフルエントまで培養したウシ大動脈血管内皮細胞(BAEC)を無機ヒ素化合物で処理し,RSS産生酵素(CSE,CBS,CARS1,CARS2およびMST)のmRNA量をリアルタイムPCR法で測定した。</p><p>【結果・考察】三価の無機ヒ素(亜ヒ酸)で処理したBAECのRRS産生酵素の発現レベルを調べたところ, CBS, MSTおよびCARS1の発現レベルはほとんど変化せず, CARS2の発現レベルが低下することが確認された。一方, 亜ヒ酸処理によってCSEの発現が誘導されることが明らかとなった。五価の無機ヒ素(ヒ酸)で処理したBAECにおいては,CSE mRNAの有意な発現変化は認められず,CSEの発現誘導は亜ヒ酸選択的に引き起こされると考えられる。RSSがROS消去作用を有していることが報告されていることから,CSEによって産生されたRSSが亜ヒ酸誘発性のROSに対して防御的に働く可能性が考えられる。また,CSEの発現調節に関与する転写因子HIF-1を阻害することによって, 亜ヒ酸によるCSEの発現誘導が一部抑制されたことから,本発現誘導にHIF-1経路の活性化が一部関与している可能性が考えられる。現在, 亜ヒ酸によるCSE発現誘導機構の詳細ならびにCSE発現誘導と亜ヒ酸毒性との関係について検討中である。</p>
収録刊行物
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- 日本毒性学会学術年会
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日本毒性学会学術年会 49.1 (0), P-121-, 2022
日本毒性学会