諫早湾における政治と司法 : 司法政治学による公共事業の分析

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タイトル別名
  • Politics and Judiciary in Isahaya Bay : Analysis of public works by judicial politics

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抄録

公共事業が政治のトップ課題となったのは民主党政権による「コンクリートから人へ」である。2009年8月30日に投開票が行われた第45回衆議院議員総選挙の結果,民主党が308議席を得て衆議院第一党となった。これに伴い当時の前原国土交通大臣は「八ッ場ダム」の建設中止を宣言したが,徐々に再開されてしまった。この大きな原因として各地の裁判所の判決の重みがある。裁判ではもちろん直接的には政治は審理対象とはされない。審理対象はあくまで根拠法とそれに基づく処分(行政の執行)である。そういう意味では,論理的には,政治と裁判は連動しない。八ッ場ダム判決も同様であるが,司法部で出された判決を,政治で覆すことはひどく困難で,そのような意味では政治とは連動している。もっとも,そもそもの法律の制定及び行政の執行には大きく政治がかかわっていて,これは全国総合開計画,あるいはこれに連動する日本列島改造論などを見れば明らかである。また様々な判決が,この政治による法律の制定や行政の執行に大きな影響を与えることもしばしばみられる。公共事業は裁判でも多く争われているが,近年,政治と司法の交点となった代表的な公共事業は,諫早湾と八ッ場ダムであろう。諫早湾と八ッ場ダムの裁判では,多くの論点で争われたが,それぞれ事業と漁業被害との因果関係と事業による治水効果が争点となった。本稿では,現在まで長期間にわたって裁判が継続している諫早湾干拓事業について分析・検討した。諫早湾では,歴史的に干拓事業に「消極的な佐賀県」対「積極的な長崎県」,「因果関係を認めた佐賀地方裁判所」対「因果関係を認めなかった長崎地方裁判所」という対立軸があるように見える。このように,因果関係が政治と司法との間で交点となっているのは興味深い現象である。諫早湾干拓事業の問題は,司法による解決は極めて困難であり,最終手段として政治的決断による特別立法による解決が必要になるだろう。

収録刊行物

  • 公共政策志林

    公共政策志林 10 60-74, 2022-03-24

    法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390856506097321856
  • NII書誌ID
    AA12714757
  • DOI
    10.15002/00025650
  • HANDLE
    10114/00025650
  • ISSN
    21875790
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • IRDB
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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