COVID-19と音楽パフォーマンスの場所のデジタル化

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書誌事項

タイトル別名
  • COVID-19 and Digitalisation of ‘place of music performances’
  • Status reports and issues based on qualitative surveys
  • ライブハウス・クラブへの定性調査に基づく現状と課題の整理

抄録

<p>現在も続くCOVID-19は,経済活動の多方面に影響を及ぼしたが,なかでも「音」を財・サービスとして扱うパフォーマンスの場所としてのライブハウス・クラブは,その構造上の特性(特に騒音対策やフロア補強による密閉性の高さ)や,対面接触を前提とする音楽パフォーマンスに係る一般的特徴(例えば演者や観客間の人間距離等)に起因し,極めて深刻な影響を受けている。こうしたパフォーマンスの空間を文化創造経済セクターとして理解した場合,2008年の世界金融危機に経済的影響を受けにくかった文化創造経済セクターへの影響は,対面接触回避を原則とする偶発的機会の喪失や,トランスナショナルな「知識のコミュニティ」を媒介する場所の喪失等に起因し,より中長期化する見込みである(池田ほか,2022)。 他方で,COVID-19の影響は否定的側面に留まらず,社会・文化慣習をドラスティックに変化させる契機となった。特に,インターネット利用を前提とするコミュニケーションチャネルの多様化はCOVID-19を契機に一層加速し,知識情報産業を中心にその多くがデジタル化されたことで,都心部ではオフィス空間の縮小すら傾向として看取される。文化芸術活動も例外ではなく,特に音楽を財・サービスとするパフォーマンスはSNS萌芽期の2000年代よりYouTubeやSoundcloud,そしてデジタルプラットフォームと融合し,場所とデジタルの融合したパフォーマンス空間が形成されてきた(Ikeda and Morgner, 2021)。こうした側面を利用し,COVID-19における音楽産業への即時支援として,ベルリンのUnitedWeStreamを一例としてボランタリー企画が実施され,これは行政の即時支援と並行してデジタルを中核とする夜の有機的ガバナンスがいかに有効かを世界に示した(池田,2022)。しかし,デジタルの有効性が他の文化創造経済に比して比較的高いと推測される音楽経済のなかにおいて,アーティスト(生産者)と聴衆(消費者)を繋ぐパフォーマンスの空間であるライブハウス・クラブが,COVID-19を契機として,いかなるデジタルプラットフォームを使用した/使用してきたのか,またそれによりいかなる課題に直面したのかに関する実態調査は管見の限り見当たらない。 そこで本稿は,繁華街や市街地に集積する傾向にあるライブハウス・クラブがCOVID-19における国の公衆衛生政策の方針と,それを踏まえた特別地方行政・地方行政の営業自粛・時短営業の要請を受け,営業形態の変化を余儀なくされたなか,対面接触を前提とするパフォーマンスの場所はデジタル経済をどのように取り入れたのか,またそれにより,いかなる可能性や課題が見えてきたのかに関して,2022年1月から2022年3月にかけて実施した32件の聞き取り調査に基づき,明らかにすることを目的とする。なお聞き取り調査対象は,ライブハウス・クラブ経営者や関連会社,各業界における有識者・DJ・協会に対してオンラインで実施した。聞き取り調査の結果,ライブハウスおよびクラブ双方において,①企画(ブッキング,ネットワーキング,企画会議),②施設整備(エントランス等の非接触経済化),③広報(フライヤー等の印刷物類の廃止),④パフォーマンス(オンライン配信ライブ)でデジタル化を進めていることが分かった。なお,①はCOVID-19以前より実施されていたが,COVID-19を契機に完全にデジタルへと以降し,今後も継続する見込みであり,また②③はライブハウスで顕著であった。音楽の<パフォーマンスの空間>として,国境のないデジタルプラットフォームが有効性をもつ一方,対面接触前提の<パフォーマンスの場所>であるライブハウスやクラブ等では,圧倒的な音響設備により初めて得られるライブの音圧や,共有される場所の経験,あるいは偶発的なネットワークの生成を一例として,デジタルには代替不能な,アーティスト(生産者)と聴衆(消費者)を繋ぐin-betweenの場所としての新たな役割を求められている。他方で,デジタル黎明期ともいえるCOVID-19を契機に,文化芸術領域は著作権・原盤権やNFT等の新しい課題も浮き彫りとなっている。COVID-19の不安定な状況において影響を断続的に受けるなか,関係主体における実証実験を一例とし,コロナ・レガシーの発想が今,求められよう。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390856594643578368
  • DOI
    10.14866/ajg.2022a.0_96
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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