キク科ヤクシワダン属の所属と学名

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  • Hybrids in <i>Crepidiastrum</i> (Asteraceae)

抄録

<p>ヤクシワダン属 xCrepidiastrixeris はヤクシソウとアゼトウナ属3種との間の3雑種種 nothospecies よりなる雑種属 nothogenus とされる (Kitamura 1955, Knobloch 1972, Ohwi and Kitagawa 1992, Koyama 1995). これらの分類群には分類学的問題と命名上の誤りが含まれている.</p><p> xCrepidiastrixeris はヤクシワダン属の学名として Kitamura (1937) によって発表された. この属名はアゼトウナ属 Crepidiastrum Nakai のワダンと Ixeris 属のヤクシソウとをつないで, これら 2つの属間雑種名としたと考えられるが, Kitamura(1937) の発表では Ixeris 属についての記述を欠いている. このため国際植物命名規約付則IのH.9.1条 (McNeill et al. 2006) に規定されている正式発表の条件を欠く非合法な発表であった. 後に Kitamaura (1942, 1955) は xCrepidiastrixeris Kitam.は CrepidiastrumYoungia の雑種属であると明記したが, 今度は国際植物命名規約付則Iの H.6.2条に反する命名となった. 結局, xCrepidiastrixeris Kitam. は非合法名と見なされねばならない.</p><p> 近年 Pak and Kawano (1992) はヤクシソウをアゼトウナ属 Crepidiastrum に移した. この見解による属の範囲の下ではヤクシワダン属はアゼトウナ属に含められることになる. しかし, Pak and Kawano (1992) はヤクシワダン属について採り上げなかったので, ヤクシワダン, ヤクシホソバワダンおよびヤクシアゼトウナの学名はアゼトウナ属に移されないままに残っていた. Yonekura (2005) はヤクシアゼトウナをアゼトウナ属に組み替えたが, この種がヤクシワダン属に含められていることには触れなかった.</p><p> ヤクシソウをアゼトウナ属とする説は形態と染色体のうえから合理的であると思われる. この考えにしたがってわれわれはヤクシワダンとヤクシホソバワダンをアゼトウナ属に帰属させて学名を正すこととした.</p><p> ヤクシワダン Lactuca xdenticulatoplatyphylla Makino の種形容語は 「片親の学名の形容語の語尾のみを変更してハイフンで結びつけて形容語と指定したもの」であり, 国際植物命名規約 H.10.3条に規定される雑種式に相当する. Nakai (1920)は Paraixeris の下で denticulato-platyphylla を種形容語としたが, 国際植物命名規約23.6(d)条の規定により, これを種形容語とみなすことはできない. これらの理由でヤクシワダンには新学名が必要である. アゼトウナ属を設立した中井猛之進博士を記念して Crepidiastrum xnakaii H. Ohashi & K. Ohashi とした. ヤクシワダンは牧野富太郎が1915年11月 7日に神奈川県葉山で採集した標本に基づいて命名されたが, 今回この標本を TI では確認できなかった. しかし, TI には中井博士の採集品と同定品のヤクシワダンが多数あり, その中の 1点をホロタイプとした (Fig. 1A). あわせて本種の形態的変異を示す (Figs. 12).</p><p> ヤクシホソバワダンには学名としてxCrepidiastrixeris denticulato-lanceolata Kitam. が用いられている. この種形容語もヤクシワダンの場合と同様で, 国際植物命名規約 H.10.3条に規定されている雑種式に相当する. このためヤクシホソバワダンには学名がないことになる. われわれはこの雑種を新たに Crepidiastrum xmuratagenii H. Ohashi & K. Ohashi と命名し, 屋久島で採集された Murata et al. 40 (KYO) の一枚をホロタイプとした (Figs. 2C, D). 種形容語は村田 源氏に献名した. 村田氏は多くの研究上のご業績の他にも長い間多数のおし葉標本を作り, KYO のみならず TI, TUS を含む多くのハーバリウムを充実させて下さり, 分類学の基礎に大いに貢献して下さっている.</p><p> なお, xCrepidiastrixeris denticulato-lanceolata Kitam. の実体にも問題があると思われる. 初島 (1971) は, この雑種の学名のタイプとして引用された標本 「奄美大島名瀬と山和の間. 小泉源一. 29 Apr. 1923 (KYO)」 の同定に関してすでに疑問を呈している. 初島によれば, 奄美大島にはヤクシソウは自生せず, 名瀬と山和の間には 「一見ヤクシホソバワダンに似たホソバワダンの広葉型または葉の羽裂するヤクシワダン型のもの」 が多いという. xCrepidiastrixeris denticulato-lanceolata Kitam. という名称は正式な学名ではないので, そのタイプ標本はないが, タイプとされた標本 (Fig. 3A) を調べると, ホソバワダンに当たると思われる. われわれは初島の推測どおり, この標本はホソバワダンであると判定した.</p><p> ヤクシアゼトウナはヤクシソウ属 Paraixeris として命名され, そのホロタイプは TI にある (Fig. 5A). この種は Kitamura (1937) によってヤクシワダン属に移され, xCrepidiastrixeris surugensis (Hisauti) Kitam. とされてきたが, これは非合法名である. アゼトウナ属での正名は Paraixeris surugensis Hisauti を組み替えた Crepidiastrum xsurugense (Hisauti) Yonek. である. なお Paraixeris surugensis の原発表では著者名は Hisauchi であるが, 久内清孝先生はご自身で Hisauti と綴られたこともあり, Brummitt and Powell: Authors of plant names (1992) では Hisauti に統一しているのでそれに従った.</p>

収録刊行物

  • 植物研究雑誌

    植物研究雑誌 82 (6), 337-347, 2007-12-20

    植物研究雑誌編集委員会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390856760328750080
  • DOI
    10.51033/jjapbot.82_6_10003
  • ISSN
    24366730
    00222062
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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