<研究論文>驚異へ捧げる賛辞 : ナポリ随一の文筆家ロレンツォ・クラッソに見る日本像

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タイトル別名
  • In Praise of Marvels : Images of Japanese in the Work of Lorenzo Crasso, the Greatest Writer in Naples
  • キョウイ エ ササゲル サンジ : ナポリ ズイイチ ノ ブンピツカ ロレンツォ ・ クラッソ ニ ミル ニホンゾウ

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抄録

ナポリ出身の弁護士にして文筆家であったロレンツォ・クラッソ(Lorenzo Crasso, 1623–1691)は、『著名武将伝賛』(Elogi di capitani illustri, Venezia, 1683)を著し、16~17世紀の世界各地の著名な武将98名の事績を、礼賛というスタンスから評伝形式で紹介した。この著作は、豊臣秀吉や徳川家康も取り上げている。日本をはじめとした非ヨーロッパ文化圏の人物を、報告書や旅行記形式ではなく、人物伝あるいは伝賛という形式で纏め上げた著作は、同時代では他に類を見ない。 本論文は、『著名武将伝賛』で取り上げられている豊臣秀吉と徳川家康の記述を分析することで、17世紀中葉イタリアにおける日本人イメージの受容、とりわけ日本人武将のイメージの解明に注力する。まず、著者ロレンツォ・クラッソの生い立ち、生まれ育ったナポリの当時の状況を明らかにする。そののち当該著作の17世紀イタリアにおける文学のなかでの位置を確認し、『著名武将伝賛』の概要に目を向けたうえで典拠同定を試み、著者クラッソにより描かれた豊臣秀吉と徳川家康の人物像を考察することに努める。 クラッソは、秀吉を統治者・武将としての資質を備えるものの、ヨーロッパでは認められない奇想天外な生涯を送った人物として取り上げようとした一方、家康のなかに、現実と向き合い粛々と判断を下していくというヨーロッパにおける理想の統治者像を見出し、非西欧社会にも西洋の理想を体現した統治者がいたことを評価していた事実の解明を本稿は企図する。 イタリア語を解しクラッソの著作を目にしたヨーロッパの読者には、『著名武将伝賛』で取り上げられた奇想天外な秀吉と、ヨーロッパの武将と同様な政治手腕を発揮した家康は、自分たちには未知の異文化世界の驚異と映ったことは想像に難くない。同時代読者の反応をも考慮に入れながら、『著名武将伝賛』執筆にあたりクラッソが秀吉と家康を列することで、洋の東西を超えて共通して見られるその類まれな政治手腕という「驚異」に賛辞を送っていたメッセージを読み解き、そして紹介することを本稿は主眼とする。

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