機械学習を応用した強度変調放射線治療の品質保証

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タイトル別名
  • Application of Machine Learning to Patient-Specific IMRT Quality Assurance

抄録

<p>「医学物理学」という学問分野をご存じだろうか? 文字通り捉えるなら,「物理学を医学に応用する分野である」とごく簡単に定義することも可能だが,それだけでは捉えきることができない豊富な内容を持つ学問分野である.医学物理学は,放射線医学(放射線または放射性物質を医療に応用する学問分野)を主な活躍のフィールドとしており,具体的には放射線診断,放射線治療,核医学の各分野である.放射線診断はCTやMRIなどの医用画像を基に病気の診断などを行う分野,放射線治療は放射線を使って主にがんの治療を行う分野,核医学は放射性同位元素を用いた放射性医薬品を体内に投与して病気の診断・治療を行う分野である.</p><p>筆者らの専門は,がんの放射線治療の医学物理学である.がんの放射線治療は,がん治療の三本柱の一つとされており,X線などの放射線をがん細胞に一定の量(線量)を投与することでがん細胞を死滅させることを目指す治療法である.近年,放射線治療は急速に「高精度化」を遂げており,その中で医学物理学の果たしている役割は非常に大きい.例えば,強度変調放射線治療(IMRT: Intensity-Modulated Radiation Therapy)と呼ばれる比較的新しい放射線治療技術は,放射線をがん細胞のみに照射することでがん周辺の正常な臓器の線量を最小限に抑えることが可能な技術である.IMRTを行うためには,放射線を高い精度で照射する放射線治療装置の開発や,患者体内の線量分布を精度良くかつ短時間で計算して治療前のシミュレーションを行うための線量計算アルゴリズムの開発などが必須となるが,その開発の歴史の中で医学物理学は大きな役割を果たしてきた.医学物理学は,がんの放射線治療に大きく貢献しており,欠かすことのできない学問分野であるとも言える.</p><p>IMRTの実施に当たって重要となるのが「その治療精度をいかに担保するか」である.コンピュータ上のシミュレーションでどんなに素晴らしい線量分布が実現できたとしても,それが実際に患者の体内でも精度良く実現できなければ意味がない.IMRTは複雑な治療技術なので,様々な不確かさを内包しているが,その不確かさが臨床上許容できるレベルかどうかを評価し,すべての患者に対してIMRTを安全にかつ高精度で実施する手法を開発することも医学物理学の重要な課題である.</p><p>近年,人工知能の技術の一つである機械学習の手法が医学物理学にも急速に取り入れられつつある.機械学習は,人間が発見することが困難なエラーや異常も検出できる可能性を秘めた技術であり,例えば放射線診断では既に大きな成果を上げている.筆者らは,機械学習の手法をIMRTに応用し,コンピュータ上のシミュレーション結果に含まれる可能性があるエラーや,治療装置で生じる可能性がある機械的なエラーを効率良く検出・判別できるモデルを開発した.この成果は,IMRTをより安全かつ高精度で実施する手法を提供するだけでなく,IMRTに携わる医療従事者の負担を減らすなどの効果をもたらす可能性もある.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 77 (11), 722-730, 2022-11-05

    一般社団法人 日本物理学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390856970589429120
  • DOI
    10.11316/butsuri.77.11_722
  • ISSN
    24238872
    00290181
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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