分子性導体におけるノーダルラインとそれによる軌道帯磁率
書誌事項
- タイトル別名
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- Nodal Line and Orbital Magnetic Susceptibility in Organic Conductors
抄録
<p>ディラックは量子力学と特殊相対論を両立させるためには4×4の行列を用いたディラック方程式を考えなければならないことを示した.ディラック方程式の平面波解はE=±√m2c4+c2p2の相対論的エネルギーを持ち,負のエネルギーを持つ陽電子解があることを予言した.ここでc,m,pはそれぞれ光速,電子の質量,運動量である(以下ディラック分散の原点をディラック点と呼ぶ).</p><p>このようなディラック方程式で記述される電子,つまり「ディラック電子」は,固体中でも現れることが知られている.古くは炭素の蜂の巣格子からなる1層のグラフェンが,低エネルギーで2次元のギャップのないディラック方程式に従うことが示された(固体中ではmc2がエネルギーギャップに対応する).これと同様のディラック電子系がいくつかの分子性物質で見られ,実験・理論とともに大きく進展している.</p><p>ディラック電子系を有する分子性導体には以下のような特徴がある.(1)ディラック点のエネルギーがフェルミエネルギーに非常に近く,かつ他のバンドがフェルミエネルギー付近に存在しない.(2)低次元系でありながら3次元の結晶であるためにバルクの測定が可能であり,帯磁率や電気伝導度,ゼーベック係数などの物性について実験と理論との比較検討ができる.(3)不純物が非常に少ない.(4)圧力や分子置換などによって,ホッピングパラメータやバンド構造を比較的容易に変えることができる.(5)1つの分子が大きいためにホッピングパラメータが比較的小さく,相対的にクーロン相互作用の効果が大きく効く.</p><p>ディラック電子系を持つ分子性導体としてα-(BEDT-TTF)2I3が有名であるが,この物質でディラック電子系を実現するためには圧力が必要で,このために実験が難しいことが知られている.これに対し,常圧下でディラック電子系が実現していると考えられるHMTSF-TCNQとα-(BETS)2I3について,ここでは紹介する.前者では,ディラック点が波数空間内で連続的に存在するというノーダルライン半金属が実現していると考えられ,低温で電荷密度波への相転移が生じる.後者においても2次元波数空間に垂直な方向にノーダルラインが形成されているといえるが,スピン軌道相互作用によってディラック点に小さなギャップが開いていると考えられている.</p><p>これまでエキゾチックな電子状態には,それに付随する特徴的な物理量が存在し,それが実験・理論を主導してきた.もっとも典型的な例は量子ホール系でのホール伝導度である.ディラック電子系では,このような物理量は軌道帯磁率であると考えられる.実際,3次元ディラック電子系が実現していると考えられているビスマスとその関連物質において,巨大反磁性の起源がディラック電子系特有のバンド間効果であることが福山・久保によって示されている.</p><p>最近の研究により,HMTSF-TCNQでは,第一原理計算および帯磁率の理論解析からノーダルライン半金属由来の軌道帯磁率が実験結果を理解するためには重要であることがわかった.さらに,α-(BETS)2I3については,スピン軌道相互作用によるギャップがスピンホール効果などを引き起こす可能性があること,また帯磁率の温度依存性がギャップのあるディラック電子系によって理解できることなどが明らかになった.</p>
収録刊行物
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- 日本物理学会誌
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日本物理学会誌 77 (11), 751-756, 2022-11-05
一般社団法人 日本物理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390856970589431296
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- ISSN
- 24238872
- 00290181
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- KAKEN
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可