中殿筋活動に着目しウェルウォークWW-1000 の導入が歩行の代償運動の抑制に有効であった脳卒中患者 −症例報告−

DOI
  • 狩生 直哉
    別府リハビリテーションセンター リハビリテーション部
  • 戸髙 良祐
    別府リハビリテーションセンター リハビリテーション部 大分大学大学院 福祉健康科学研究科
  • 阿南 雅也
    大分大学大学院 福祉健康科学研究科 大分大学 福祉健康科学部

抄録

<p>【はじめに,目的】</p><p>長下肢装具の使用は,股関節周囲筋筋力が十分でない脳卒中患者に対して推奨される.しかし,長下肢装具を使用した歩行練習では,立脚期の安定性を高められるが,遊脚期に分回し歩行などの代償運動がしばしば見受けられる.一方,ウェルウォークWW-1000(以下,WW)は,立脚期に膝関節伸展位に保持し,遊脚期に膝関節屈曲運動を促すため,代償運動の抑制が可能とされている.</p><p>今回,麻痺側立脚期に側方動揺を呈する脳卒中患者を担当した.歩行時の側方動揺に対する制御には中殿筋が寄与しているとの報告がある.歩行時の中殿筋の筋活動に着目し,WW の導入が歩行の代償運動の抑制に有効であったため報告する.</p><p>【方法および症例報告】</p><p>症例は,アテローム血栓性脳梗塞により右片麻痺を呈した70 歳代女性.Stroke Impairment Assessment Set の下肢運動項目は4-4-2.Functional Ambulation Categories(以下,FAC)は1.理学療法開始時では,短下肢装具を装着し,平行棒内歩行が可能であったが,麻痺側立脚期に側方動揺が認められた.</p><p>介入前後に表面筋電計を使用し,筋活動を計測した.課題動作は平行棒内歩行とし,介入前は短下肢装具のみを使用した遊動条件と短下肢装具と膝装具を使用した固定条件とし,介入後は短下肢装具のみを使用した誘導条件とした.計測筋は麻痺側中殿筋とし,サンプリング周波数1,000Hz にて計測した.得られた筋電データは20-500Hz のバンドパスフィルタを設定し,50ms の二乗平均平方根により平滑化した.歩行周期は麻痺側踵骨隆起部に貼付した加速度計より同定した.平滑化された筋電データのうち,安定した筋電波形が得られた5 歩行周期を抽出し,安静立位での1 秒間の筋活動の平均値で正規化(%EMG)を行った.歩行周期を時間正規化し,前半60% を立脚期,後半40% を遊脚期と規定してそれぞれ最大値を算出した.</p><p>【結果および経過】</p><p>中殿筋の筋活動を(立脚期/ 遊脚期)で記載する.介入前の誘導条件は(401.2 ± 72.7 %EMG/176.7 ± 44.4 %EMG)であり,固定条件は(479.3± 45.0 %EMG/225.6 ± 55.9 %EMG)であった.このことから,固定条件では立脚期の膝関節固定が有効である一方で,遊脚期では代償運動の原因となっていた可能性がある.そのため,代償運動の抑制が期待されるWW の介入が有効と考えた.WW での介入は,2 週間の通常の理学療法の時間内に実施した.歩行距離は症例の疲労感に合わせて適宜変更した.介入後の誘導条件では(781.9 ± 238.7 %EMG/199.9 ± 47.6 %EMG)であった.また,介入後のFAC は4 であった.</p><p>【考察】</p><p>今回,麻痺側立脚期に側方動揺を呈する脳卒中患者に対して,歩行時の麻痺側中殿筋の筋活動の計測を行った.中殿筋は歩行時の側方動揺の制御に寄与しているとの報告があり,股関節周囲筋筋力が十分でない脳卒中患者に対して,長下肢装具の使用が推奨されている.本症例は膝関節固定にて立脚期の筋活動量の増大が認められたが,遊脚期においても筋活動が増大していたことから代償運動の原因となっていた可能性があった.WW は,立脚期に膝関節伸展位に保持し,遊脚期に膝関節屈曲運動を促すことが可能である.そのため,遊脚期の代償運動による筋活動を抑制しつつ,立脚期の中殿筋の筋活動を賦活させた.その結果,介入前後において誘導条件の立脚期の筋活動は増大したが,遊脚期では変化がなかった.このことから,WW によって遊脚期における代償運動を抑制しつつ,立脚期の中殿筋の筋活動を促すことが示唆された.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は,当院の倫理委員会の承認(承認番号30)を得て実施した.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390857202734295168
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2022.0_117
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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