カーボン製肘伸展型装具が脳卒中片麻痺患者の歩行対称性に及ぼす影響

DOI
  • 東條 明徳
    医療法人福岡桜十字 桜十字福岡病院 リハビリテーション部
  • 久保田 勝徳
    医療法人福岡桜十字 桜十字福岡病院 リハビリテーション部 桜十字先端リハビリテーションセンター 研究員
  • 遠藤 正英
    医療法人福岡桜十字 桜十字福岡病院 リハビリテーション部 桜十字先端リハビリテーションセンター 研究員
  • 橋本 将志
    有園義肢株式会社 営業部課長
  • 小峯 敏文
    アドバンフィット株式会社 企画マーケティング部 企画開発室 技術顧問
  • 朝田 雄介
    桜十字先端リハビリテーションセンター 研究員 京都府立医科大学 精神機能病態学 精神医学教室
  • 玉利 誠
    桜十字先端リハビリテーションセンター 研究員 令和健康科学大学 リハビリテーション学部 理学療法学科

抄録

<p>【はじめに】</p><p>脳卒中片麻痺患者は歩行時に腕振りが左右非対称となり易いため,セラピストが肘関節を伸展位に保持しながら歩行練習を行うことも少なくない.当院では,空気圧により肘や手関節を伸展位保持するエアースプリントを歩行練習時にも活用しているが,エアースプリントは使用準備に時間を要することや,歩行などの動的場面で使用すると空気が漏れやすいこと,さらに,エアースプリント自体が大きく,患者の身体イメージに何らかの影響を及ぼしている可能性があるといった問題が考えられる.そこで我々は,これらの問題を解決しつつ,エアースプリントと同等の効果が得られる実用性の高い装具を開発することを目的に,カーボン素材を使用した新たな肘伸展型装具を試作した.本研究では,脳卒中患者1 例を対象に,その効果について検討した.</p><p>【方法】</p><p>試作したカーボン製肘伸展型装具の重量は215g で,熱可塑性ウレタン素材の3 つのカフ(上腕・肘近位・前腕),ベルクロ,カフを繋ぐカーボンファイバー素材のロッド,ラチェット式単軸の肘継手で構成した.対象は,右片麻痺を有する第118 病日の50 歳代男性で,Brunnstrom Stage 上肢Ⅲ・手指Ⅲ・下肢Ⅳ,上腕二頭筋の筋緊張はmodified Ashworth scale 2,歩行はFunctional Ambulation Categories 3 であり,装具非装着の歩行時には麻痺側肘関節が70°~90°屈曲しており,下肢の分回しも観察された.対象の第2 腰椎に3 軸加速度計(住友電気工業社製)を貼付し,①カーボン製装具,②エアースプリント,③装具非装着の3 条件における10m 歩行を3 回ずつ2 日間(合計18 試行)計測し,5 歩行周期の重心加速度を抽出した.その後,Zijlstra らの報告と同様に立脚期を4 区間に分割し,両側の対称性を示すSimilarity Index(SI)値を算出した.</p><p>【結果】</p><p>10m 歩行時間は,カーボン製装具:13.12 秒,エアースプリント:13.21 秒,非装着:14.03秒であった.上下方向のSI値は,カーボン製装具:0.82,エアースプリント:0.85,非装着:0.76 であった.同様に,前後方向では,カーボン製装具:0.85,エアースプリント:0.86,非装着:0.75 であり,左右方向では,カーボン製装具:0.82,エアースプリント:0.83,非装着:0.75であった.</p><p>【考察】</p><p>本研究の結果,装具非装着時と比較して,カーボン製装具およびエアースプリント装着時には歩行時間が短縮し,SI 値も対称を意味する1 に近似したことから,歩行時の麻痺側上肢を伸展位に保持することにより,歩行速度と対称性が改善する可能性が示唆された.また,我々が試作したカーボン製装具は,エアースプリントと同等の効果を与える可能性が示唆されたが,エアースプリントは患者が独力で装着することは不可能であるのに対し,カーボン製装具はベルクロのみで装着が可能であり,また,ラチェット式の継手を採用しているため,患者自身で固定角度を変更することも可能である.さらに,エアースプリントよりも軽量かつ小型であるため,患者の身体イメージに悪影響を及ぼす可能性も低いと思われる.これらのことから,試作したカーボン製装具は実用性が高いと考えられるが,その一方で,本研究は1 症例での比較検討であるため,今後は症例数を増やし,より詳細に検討する必要があると考える.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は,当院の倫理委員会の承認を得た後,対象者に研究内容を説明し,同意を得て実施した.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390857202734301184
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2022.0_131
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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