人工股関節全置換術後患者に対する理学療法評価と治療の一考察 −術前の状態を予測した理学療法によって良好な経過を示した1症例−

DOI
  • 原田 太樹
    鹿児島大学病院 臨床技術部 リハビリテーション部門
  • 稲留 真輝
    鹿児島大学大学院 保健学研究科博士前期課程保健学専攻
  • 松下 光次郎
    岐阜大学 工学部機械工学科 知能機械コース
  • 坪内 優太
    令和健康科学大学 リハビリテーション学部 理学療法学科
  • 竹尾 雄飛
    大分大学医学部附属病院 リハビリテーション部 大分大学大学院 医学系研究科博士課程医学専攻
  • 井上 航平
    大分大学医学部附属病院 リハビリテーション部
  • 藤元 祐介
    鹿児島大学病院 整形外科・リウマチ科
  • 吉田 輝
    鹿児島大学病院 リハビリテーション科
  • 下堂薗 恵
    鹿児島大学病院 リハビリテーション科

抄録

<p>【はじめに】</p><p>変形性股関節症に対する外科的治療の一つに人工股関節全置換術(THA) があるが, その患者背景や手術までの経過によって術後理学療法プログラムは多様である. そのため術前に患者の身体機能や歩容などを評価することは, 術後の経過を予測する上で特に重要なポイントになるが, 今回術前評価が実施できず, 術直後からの介入開始となった症例を経験した. その際,画像所見や健側股関節周囲の機能を参考に, 術後の経過を予測して介入を行い良好な結果を得た症例を経験したため, ここに報告する.</p><p>【症例紹介】</p><p>患者は70 歳代男性, 形成不全性股関節症とそれに伴う骨挫傷と診断,右THA を前外側アプローチ(ALS アプローチ) にて施行. 特記すべき術後合併症はなく, 術後翌日に理学療法を開始. 画像所見より, 術前X-P にて右股関節にOA所見を認め,脚長差は0.5cm(右<左), 術前CTにて右殿筋群・大腿部に軽度の筋萎縮( +), 脂肪変性( −), 右股関節の%Femoral offset(%FO) は術前24.1%, 術後23.0% であった. 問診にて術前は骨性疼痛による歩行能力低下であることが推測された. 独歩可能となった術後5 日目の理学療法評価を示す. 疼痛は安静時の創部痛, 中殿筋に収縮時・伸長時・荷重時痛を認めた. 股関節内転可動域(R/L) は0/5°であり,股関節外転筋力はMMT(R/L) で外転4(pain)/4,10m 歩行テストは9.5 秒, 右立脚期の体幹右側屈, 立脚後期の骨盤右回旋, 歩幅の減少を認めた. 客観的歩行評価として加速度計を用いた歩行解析を行い, 歩行の動揺性を示すRoot Mean Square(RMS, 単位m/sec2)は前後/左右/鉛直成分それぞれ2.47/2.48/1.59,歩行周期時間の変動性を示すStride-to-stride Time Variability(STV) は3.8%であった.</p><p>【問題点の整理】</p><p>本症例の術前脚長差は0.5cm であり, 術後の%FO も変化がほとんどなかったため, 手術による筋の伸長痛は少なく, 骨性の疼痛性跛行と健側の内転可動域の可動域制限によって, 術前から中殿筋の伸張性低下があったと予測し,MMT やCT の所見から, 疼痛性の筋力低下と推測し治療プログラムの立案及び介入を実施した.</p><p>【理学療法治療プログラム】</p><p>介入は創部周囲に対して炎症の軽減を目的としたアイシング, 中殿筋へのストレッチ, 股関節外転筋に対して他動運動から抗重力運動へと段階的に負荷をかけながら筋力増強運動を実施. また歩行訓練や荷重訓練なども状態に応じて実施した.</p><p>【結果】</p><p>転院前( 術後12 日目) の結果を示す. 疼痛は中殿筋の収縮時痛のみ残存し,10m 歩行テストは8.5 秒, 術後5 日目に比較して, 右立脚期の体幹右側屈の減少, 立脚後期の骨盤右回旋の減少, 歩幅の増大を認め,RMS は1.96/2.19/1.51 m/sec2,STV は2.7%と改善を認めた.</p><p>【考察】</p><p>本症例は, 上記の問題点に基づき介入を行なった.ALS アプローチは中殿筋と大腿筋膜張筋の筋間を進入する方法( 徳本ら,2016) であり, 創部の疼痛及び外転筋力の低下を認めたと考えられ, 炎症性疼痛の改善に伴い, 元々の内転制限による中殿筋の短縮が残存した. 一方で筋力・歩行機能は早期に回復していた.%FO は外転筋力に関連する(Yamaguchi,2004) ことや, スイング速度と関連する(Sariali,2014) ことが報告されており, 本症例は, 術後%FO が維持されたことや,THA による骨性の疼痛の消失に加え, 術前からの筋力の維持, 炎症性疼痛に対するアイシングなどを実施したことから,術後早期に歩行能力が改善したと考える.</p><p>【まとめ】</p><p>術前の身体機能を画像所見や健側の股関節機能から予測することで, 術後の経過を予測しスムーズな介入に繋げることができた. 今後は重症症例での検討や症例数を蓄積し, 予後予測へ繋がる理学療法評価の確立へ向けて取り組んでいきたい.</p><p>【倫理的配慮、説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,個人が特定されることがないように配慮した.また対象となる症例には口頭にて研究の趣旨を説明し,調査・測定したデータを研究に使用する同意を得た.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390857202734418048
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2022.0_98
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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