イリノテカンによる小腸炎の発症について

DOI
  • 大槻 輝
    立命館大学大学院薬学研究科病態薬理学研究室
  • 上南 静佳
    立命館大学大学院薬学研究科病態薬理学研究室
  • 天ヶ瀬 紀久子
    立命館大学大学院薬学研究科病態薬理学研究室 立命館大学薬学部

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抄録

<p>【目的】抗がん剤は、がん細胞の増殖過程に働いて増殖を妨げ、細胞死を促す目的で作られた薬剤である。一方で、がん細胞だけでなく様々な正常細胞にも攻撃し、特に増殖の早い骨髄中の血液細胞、毛根の細胞、消化管の粘膜細胞などに影響を及ぼす。 抗がん剤のひとつであるイリノテカンはトポイソメラーゼI阻害剤であり、主な副作用として早発性の下痢と遅発性の下痢が挙げられる。早発性の下痢は投与後すぐに起こり、コリン作動性による腸管蠕動亢進が原因である。また、遅発性の下痢は投与約1週間後から起こり、イリノテカンの活性代謝物SN-38が腸粘膜を傷害することによって引き起こされる。下痢の中でも臨床で特に深刻なのは遅発性の下痢であり、この副作用は薬物治療の中止につながる可能性がある。そこで本研究では、臨床で問題視されているイリノテカンによる下痢や腸炎の病態を解析するため、その病態モデルの作製を試みた。【実験方法】7週齢の雄性BALB/cマウスに1日1回イリノテカン75 mg/kgを4日間腹腔内投与し、最終投与の72時間後に剖検して小腸および大腸を摘出した。期間中、体重および糞便の変化をスコア化して測定した。小腸及び大腸を摘出後、パラフィン薄切切片をHE染色した。またミエロペルオキシダーゼ活性を測定し炎症の程度を評価した。【結果・考察】イリノテカンの投与により経日的に体重が減少したが、下痢は観察されなかった。イリノテカン投与群において、小腸では絨毛丈の短縮、細胞の空胞化、肥大化および核の移行を含む細胞障害が観察された。また、十二指腸や空腸よりも回腸部位で特に細胞の障害が観察され、イリノテカン最終投与72時間後の組織において回腸の腺窩の減少が観察された。回腸部位のミエロペルオキシダーゼ活性は、イリノテカン最終投与72時間後の群において溶媒群と比較して有意に増大していた。また大腸においては、組織学的に障害が観察されたが小腸と比較すると軽微であった。臨床で問題視されている下痢は大腸の粘膜傷害が原因であると考えられるが、本研究で見られたように小腸粘膜炎の病態解析により、イリノテカンによる副作用の予防法の提案につながる。</p>

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