指定天然記念物を活用した地学教育の展開

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Earth science education utilizing designated natural monuments

抄録

<p>地学に関する多様な文化財(主に天然記念物・名勝)は,その地域における固有・希少なものである場合が多く,これまでその保全管理については,主に文化庁,都道府県及び市町村教育委員会等の行政や関連する保存団体等が,それぞれの文化財の保全管理計画等を策定した上で継続的に執り行っている.今回の文化財保護法の改正(文化庁:2018)に基づき,文化庁(2019)は,「文化財保護法に基づく文化財保存活用大綱・文化財保存活用地域計画・保存活用計画の策定等に関する指針」を策定し,社会状況変化(過疎化,少子高齢化,自然災害等)を背景として,地域に存在する貴重な文化財の滅失・散逸等の防止をするため,未指定を含めた有形・無形の文化財をまちづくりに活かしつつ,文化財継承の担い手を確保し,地域社会総がかりで取り組んでいくことのできる体制づくりを整備することとした.しかしここでは文化財の学校等での教育的活用法に係る具体的指針及び施策がほとんど見られない.地質学的要素を持つ多くの文化財は,自然に親しみ,そのうえで自然の秩序や規則性に気付き,自然を愛する心情を育てるとともに,生命や環境を理解・尊重する態度を養い,自然環境と人間の共生を思考する力や態度を育成する側面を持たせることができる可能性を持つため,この点に関する研究が必要である.学習指導要領解説理科編(文部科学省:2018a,2018b)は,小学校教育の中で教科理科を実施する際,その内容を「地域性を生かし,地域の特徴的な動植物を取り上げることを通して,身近な自然に愛着をもつようにする」としている.また「地域教材を扱う理科の学習では,できるだけ地域の自然と触れ合える野外での学習活動を取り入れるとともに,遠足や野外体験教室,臨海学校などの自然に触れ合う体験活動を積極的に活用することが重要である」としている.これは児童の身近に存在している多様な自然を教材として小学校理科教育に活用することにより,そこから自然の秩序や規則性に気付き,自然を愛する心情を育てるとともに,生命や環境を理解・尊重する態度を養い,自然環境と人間の共生を思考する力や態度を育成することが効果的にできるためである.こうした点から義務教育(小・中学校)における学習指導要領の内容と,国及び県,市町村によって指定された天然記念物が内包している教育的価値には,整合する部分が多い.また様々な地域へ赴任することになる教師にとって,地域の野外観察活動を計画する際,有効と思われる教材の位置やその学術的価値は把握しづらいものだが,教育委員会が所管する場合が多い指定天然記念物は,その地域固有の特色を持ち,研究者等によって学術的価値づけも十分になされていることから,教材としての情報も得やすく,学校の教育現場においては教材としての運用がしやすい.さらに指定文化財は,文化財保護法を根拠に,今後も行政によって永続的にその保存・活用がなされるため,学校教育において教材として継続的に使用しやすい利点がある.つまり学校付近の野外において理科の観察活動等を実施する必要があると考える教師が多い反面,場所や教材の選定等が小・中学校教員には課題となっているが,指定文化財を教材化することができれば,こうした課題解決の一助となる可能性がある(坂本:2022).本研究では,指定天然記念物を学校教育で用いる教材として活用する方法について検討し,数万点存在する指定文化財を,今後学校教育の中でどのように活用していくかを考察した.しかし指定天然記念物は希少でその地域固有のものであるため,その取扱いについては万全を期す必要がある.それゆえ十分な準備と教育委員会等の関係者等との綿密な協議をすることによって効果的な野外観察活動が期待できる.</p><p>[参考文献]文化庁(2018):文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律等について.https://www.bunka.go.jp/seisaku/  文化庁(2019):文化財保護法に基づく文化財保存活用大綱・文化財保存活用地域計画・保存活用計画の策定等に関する指針.12p.https://www.bunka.go.jp/ 文部科学省(2018a):小学校学習指導要領(平成29年告示)解説理科編.167p.東洋出版社,東京. 文部科学省(2018b):中学校学習指導要領(平成29年告示)解説理科編.183p.学校図書株式会社,東京.坂本昌弥(2022):指定天然記念物を教材とする理科教育の展開.~地域に存在する教育資源の活用~.心理・教育・福祉研究,21,pp.43-52.</p>

収録刊行物

関連プロジェクト

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390858608263878912
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2022.0_141
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • KAKEN
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ