砂に潜るタマサンゴに認められる横分裂による世代交代
書誌事項
- タイトル別名
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- Dimorphic life cycle through transverse division in burrowing hard coral <i>Deltocyathoides orientalis</i>
抄録
<p>イシサンゴ類は現在のサンゴ礁を構成する主要な動物である.サンゴ礁域での赤土流出が問題となっているように,一般に,イシサンゴ類 は砂や泥などの堆積物の埋積に脆弱な生物である.しかし,イシサンゴ類全体の約25%に相当する300種以上のイシサンゴが沖合の砂泥底に生息している.琉球列島をはじめ日本近海にも直径が1 cmに満たない小さなイシサンゴ類が,沖合の海底に多数生息している.その一種としてTurbinoliidae科Deltocyathoides orientalis(和名:タマサンゴ)があげられる.当該種は,ボウル状の外形を有する直径1 cm程度の無藻性単体イシサンゴであり,軟底質中へ潜行する内生の生活様式を有する.化石記録からこのような行動が約8000万年前の後期白亜紀にはすでに存在していたことが推測されている(Sentoku et al., 2016).これまで,タマサンゴは有性生殖のみを行うと考えられてきたが,それを示唆する形態学的・発生学的な証拠はこれまで認められていない.一方で,日本近海において,タマサンゴが採集される際には,未記載種の固着性単体イシサンゴが同時に採集される.本研究ではこれら 2 種が同種であるとの仮定のもと,形態解析及び分子系統解析による系統分類学的検討を行い,タマサンゴの生活環の解明を試みた. 骨格形態解析の結果,タマサンゴの骨格底部には横分裂による無性生殖に伴う骨格脱石灰の痕跡が認められた.一方,未記載種は,莢部の直径が2 mm程度の円柱状で,サンゴ体周囲に明瞭な壁を有し,コステが認められないなど,外部形態はタマサンゴと大きく異なった.しかし,隔壁や軸柱などの莢部内の形態学的特徴が,成長最初期のタマサンゴと一致した.さらに,一部のものでは莢部内の骨格が下に凸の半球状にえぐられた個体も認められた.分子系統解析では,未記載種 4 個体とタマサンゴ 4 個体について5つの遺伝子領域の塩基配列を決定し系統樹を作成した.その結果,タマサンゴと未記載種が単系統群を構成し,当該 2 種が同種であることが強く支持された. 以上の結果から貝殻片などに固着した小さな円柱状の個体から,横分裂と呼ばれる骨格を上下に分割する分裂方法(自切)を用いて,砂に潜れるタマサンゴを無性的に形成していることが明らかとなった.下部個体(Anthocaulus)は横分裂の際に,莢部の内側のみを半球状に上部個体(Anthocyathus)として切り離すことで,コステの無い壁を下部個体に残存させ,潜行行動を担うコステが発達した自由生活に適した上部個体を形成している.砂に潜ることは,捕食者から身を守ることにつながり,切り離した個体の生存の可能性が飛躍的に上昇すると考えらる. 横分裂により切り離され砂に潜る形態となったタマサンゴはそれ以上分裂せず,有性生殖のみを行い次の世代を残こす.一方,そのような有性生殖により誕生した固着性のタマサンゴは,成長と横分裂を繰り返し行うことで,砂に潜るタマサンゴを作り続ける.このようにタマサンゴはその一生(ライフサイクル)の中で,固着性の無性生殖世代と,砂に潜って自由生活する有性生殖世代とに完全に役割分担をする世代交代を行っていた.軟底質へ潜行し生息するイシサンゴの発見は,本来,堆積物による埋積に脆弱なイシサンゴが,強い障害を逆に活用し,適応放散した事例としても非常に重要である.その潜行能力をもたらした形態進化に無性生殖が関与していたことは,軟底質上に生息するイシサンゴの適応進化史の再考を求めるものである.</p><p></p><p>【引用文献】</p><p>A. Sentoku, Y. Tokuda, and Y. Ezaki(2016)Burrowing hard corals occurring on the sea floor since 80 million years ago.Scientific Reports.6,24355.1-6.</p>
収録刊行物
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- 日本地質学会学術大会講演要旨
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日本地質学会学術大会講演要旨 2022 (0), 98-, 2022
一般社団法人 日本地質学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390858608264117376
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- ISSN
- 21876665
- 13483935
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可