札幌冬季五輪2030:推進する側の論理と反対する側の論理

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  • The logic behind and against Hokkaido Sapporo 2030 Olympic and Paralympic Winter Games

抄録

<p>1.問題の所在</p><p> 「真の共生社会の実現」や「被災地復興支援」などを掲げて開催された2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,東京2020)は,選手の活躍やボランティアの貢献が賞賛される一方で,巨額の財政支出や業務運営をめぐる汚職事件,ジェンダー問題等への意識の低さなどの問題が噴出あるいは顕在化し,日本国民の五輪そのものやメガイベント運営に対する関心と評価を下げることにもなった.海外では日本以上に五輪に対する評価が低下しており,招致・開催に反対する市民運動の高まりもあって,招致・開催を目指す都市は減少する傾向にある.こうした中で,北海道札幌市は2030年の冬季五輪(以下,札幌2030)開催を目指して招致活動を展開している.一方で,招致開催に反対する市民活動等も活発化しており,2023年4月の市長選挙に向けて五輪招致のあり方が政治問題化しつつある.</p><p> 本報告では,開催都市のレガシー創出に焦点を当てて,資料調査と当事者へのヒアリング調査をもとに,札幌2030の招致開催を推進する側の論理とそれに反対する側の論理を整理・比較する.</p><p></p><p>2.推進する側の論理</p><p> 札幌市が冬季五輪招致を目指す背景には,1972年の札幌冬季五輪(以下,札幌1972)の成功体験がある.札幌市は札幌1972が都市インフラの整備を実現し,市民の誇りとアイデンティティを形成し,国際観光都市としての地位を確立したと総括し,それから半世紀が経過した現在,都市インフラを更新し,人口減少・少子高齢化に対応し,国際観光をさらに推進することを目指して札幌2030の招致開催を計画している.</p><p> 札幌市は札幌2030を市の最上位計画である「札幌市まちづくり戦略ビジョン」に掲げた都市像を具体化する事業と位置づけ,また国連が提唱するSDGsと関連づけて,「札幌らしい持続可能なオリンピック・パラリンピック〜人と地球と未来にやさしい大会で新たなレガシーを〜」を大会ビジョンに掲げ,「社会」「「スポーツ・健康」「経済・まちづくり」「環境」の4分野でレガシーを創出する計画を立案している.ただし札幌市は,これらのレガシーを,札幌2030を招致開催しさえすれば創出されるもの,あるいは行政だけが創出に向けた取組みを行うものと考えてはおらず,札幌市が抱える課題解決に向けた取組みを後押しするもの,行政と企業,市民等の協働によって創り出していくものと認識し,特に東京2020後に札幌2030招致開催への反対意見が多くなる中で,札幌市民にこのことを粘り強く説明し,招致開催への賛同と参加・協働を増やしたいと考えている.</p><p></p><p>3.反対する側の論理</p><p> 札幌2030の招致開催に反対する一部の市議会議員や市民の主張(反対理由)は,開催意義・目的の不明瞭さ,札幌市財政の圧迫,市民参加過程の軽視,の3点に集約される.</p><p>反対派の議員や市民は,経済・社会が発展過程にあった時期に開催された札幌1972と比べて,人口減少期に開催される札幌2030はその招致・開催に明確な意義・目的を見いだせないと指摘し,財政事情が厳しい札幌市がその運営に巨額の税金を投入することを疑問視している.日本国民のみならず諸外国からもそのマネジメントのあり方が疑問視される五輪ゆえになおさらだといい,市民生活の向上に直結する都市インフラの更新や除雪等に優先的に予算を配分すべきだと主張する.</p><p> また彼らは,札幌2030招致開催の是非について札幌市民の意向が十分に反映されていないことを批判している.札幌市はアンケート調査やワークショップ,出前講座などを通じて市民意向を把握してきたとするが,彼らはそれらが招致開催を前提としたものであり,札幌市市民基本条例に基づき,札幌2030招致開催の是非を住民投票で問うべきだと主張している.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390858619525977472
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_12
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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