モバイル人流データを用いた都市地理学研究の可能性
書誌事項
- タイトル別名
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- Potential for urban geographies using mobile phone people flow data
説明
<p>1. モバイル人流データの特性</p><p> モバイル人流データとは,スマートフォン等の移動端末から収集される大量の人々の位置情報である。メッシュ単位で集計されたデータが一般的で,本発表で使用した株式会社Agoopの人流データは,1kmメッシュ,500mメッシュ,100mメッシュ,50mメッシュで提供される。基準メッシュもよりミクロなスケールで集計されているため,人流が多い大都市を事例とした場合,より詳細な分析が可能である。人流データは様々な目的で活用されるようになっており,都市地理学でもどのように活用できるのか,十分に検証する必要があると考える。</p><p>2. 仙台市都心部での分析</p><p> そこで本発表では,仙台市青葉区を事例に人流データを分析し,都市地理学研究での可能性について検討する。本研究では2019年8月5, 7, 18, 19日のデータを用いるが,これはコロナ禍の影響を排除して人流データの可能性を検証するためである。主な分析地域は,仙台市青葉区の中でも都心部であり,仙台駅を東端として,駅の西側のオフィス地域や商業地域が広がる地域である。</p><p> まず,8月18日(日)と19日(月)を比較することによって,平日と休日の人流の違いについて検討していく。また,8月5日(月)には七夕花火祭,7日(水)には仙台七夕が開催されており,イベントが開催された際の人流についても検討する。ミクロなスケールの分析が可能な100mメッシュのデータを活用し,1時間毎に集計された人流を分布図にすることで,人流の24時間変化を分析した。この詳細は,学会発表の時に提示したい。 </p><p>3. 都市地理学研究の可能性</p><p> 仙台市での分析結果を踏まえ,本発表では,都市地理学における人流の活用には,以下の4つの可能性があると考える。</p><p>① 大都市都心部の機能地域区分 平日に人流が多く,休日に少ない地域をオフィス地域,休日に人流が多くなる地域を商業地域,のように,1週間や1日間の人流から,都心部を機能地域にメッシュ単位で区分することができると考える。このように人流データのみで都心部の地域区分ができるのか,他のデータとの相関分析から検証していきたい。なお,日本の都市での検証結果を踏まえて,将来的には人流データが存在する世界の大都市を事例に,都心部を地域区分していく。</p><p>② 大都市都心部のデイリーリズム研究 都心部にはオフィス地域や商業地域などがあり,それらの地域にどのように人口が滞留するか,1日24時間単位で把握することによって,大都市都心部のデイリーリズムが検討できると考える。これまでのデイリーリズム研究では,都心と郊外地域の関係性の中で検討されてきたが,人流データを用いることによって都心部というよりミクロなスケールでの分析が可能となる。</p><p>③ イベント開催時の都心部のリスクマネージメント 大都市都心部のデイリーリズムを明らかにすることができれば,イベント開催時における都心部の変動が検討できると考える。そして,イベント開催時における都心部の危機管理に対し,貴重な情報を提供できるのではないか。例えば,ハロウィンで盛り上がる渋谷を分析することで,イベント開催時の変動を分析し,何処で,何時ごろ,どのように雑踏が発生するのか,そのメカニズムを明らかにできるものと期待される。</p><p>④ 人流を踏まえた商業・サービス業の立地研究 商業・サービス業には,①常住人口をターゲットにするもの,②人流をターゲットとするもの,③双方をターゲットにするもの,がある。①はスーパー,②はカフェなどの飲食店,③はコンビニが典型例であろう。これまでの商業立地研究では,常住人口をもとに商圏分析が行われてきたが,人流データを活用することによって,様々な立地や集客について研究できると考える。都心部の機能立地について,属性データを含めた人流データを活用して,詳細な分析を進めていきたい。</p><p> 上記の①〜④を進めるため,組織的な研究体制の構築を目指す。そのために,まずは高額な人流データを購入するための研究費を獲得していきたい。</p>
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2023s (0), 117-, 2023
公益社団法人 日本地理学会