大谷崩(斜面崩壊)はCE1707に突発したシングル・イベントか?

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  • Was the Oya-kuzure landslide an abrupt single event occurred in CE1707?

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<p>1. はじめに 安倍川源流の大谷崩は日本屈指の斜面崩壊(以下 崩壊)とされ,特に静岡市葵区大野木では厚さ≧50 mの不淘汰岩屑層が河谷を埋めて高位段丘(H)面を形成する.崩壊の初生時期をCE1530~1702頃とする指摘がある(例:町田1959地理評;北村・東1988日林北支論)一方,CE1707宝永地震で巨大深層崩壊が生じたとの意見もある(例:静岡河川工事事務所1988「安倍川砂防史」;今泉2020「静岡の大規模自然災害の科学」).木村・苅谷(2022地理旨)は安倍川左支タチ沢で,本流沿いのH面構成層より層位的下位から堰き止め湖沼堆積物(LD)を発見し,埋積による本流の河床上昇中に支流が堰き止められた証拠と考えた.他方,H面構成層の年代がCE1707かどうか断定できないとした.本発表ではこの考えを補強する新たな証拠として,別の支流で発見された堰き止め湖沼堆積物を報じる. 2. 調査地点 上述のタチ沢は赤水滝の0.2 km下流に本流との合流点をもつ.さらに約1.5 km下流の右支コンヤ沢合流点付近にもH面が発達し,H面の侵食面であるM・L面群が本・支流の現流路沿いに分布する.新たに発見された堰き止め湖沼堆積物(LDk)は安倍川・コンヤ沢合流点付近のコンヤ沢河床に露出する(KO1;図). 3. 記載 KO1では現河床とほぼ同じレベルに泥流状岩屑層Mkが露出する.Mkは層厚≧1 mで下限は不明である.Mkは淘汰不良の亜角礫を含み,基質は褐色シルト・砂で微小黒色炭片や偽礫状腐植土層塊が目立つ.Mk上面は土壌化して暗褐色を呈する.Mkは直径数 cmの枝を多数含む.枝は数本まとまって放射状に上に伸び,原位置の枯死木とみられる.Mkの上に不明瞭な平行ラミナが発達する中・粗粒砂層LDkが整合で載る.LDkは層厚≧1 mで,新期の土石流物質に切られる.LDkから木片などは未発見である. 図 コンヤ沢合流点付近の地形・地質.地形断面は国交省1 mDEMに基づく.地質断面は町田1959と演者らの情報で作成.コンヤ沢にはH面離水直前(埋積完了期)に生じたとみられる別の堰き止め湖沼堆積物がかつて存在した(町田1959).インセット地図は地理院地図. 4. 年代 Mk中の枝2点の最外部(C1,C2)14C年代-暦年代(OxCal4.4+IntCal20;2σ確率分布)を得た.C1=IAAA210994=CE1655~1686(0.248)・1732~1805(0.590)・1927~(0.117),C2=IAAA210995=CE1655~1687(0.244)・1731~1806(0.586)・1926~(0.124). 5. 考察 ■Mkは炭片や土層塊を特徴的に含み,炭焼窯・焼畑や森林表土の流出を伴ったコンヤ沢の泥流物質が起源と考えられる.LDkはMkを覆う静水域の砂層で,堰き止め湖沼堆積物と判断される.ただし堰き止めを生じさせた顕著な崩壊斜面はKO1一帯に存在しない.2点の14C年代がMk上面に成長していた樹木の浸水枯死年代を示すとすれば,その時期は1600年代後半を含みうる.またタチ沢と異なりKO1ではH面構成層とMk・LDkの関係を観察することはできないが,H面離水後の下刻期にコンヤ沢を堰き止めるほどの土砂流出が本流で生じた証拠はなく,KO1周辺におけるH面の高度分布・位置からみてMk・LDkともH面構成層の定着以前から存在した可能性は高い.H面構成層の年代は未詳だが,仮にCE1707としても,それ以前から本流は徐々に埋積されコンヤ沢が堰き止められたのであろう.以上のように,異なる支流でH面形成前の堰き止め湖沼堆積物が発見された.■大谷崩崩壊物質の総量は1.2×108 m3(町田1959)とされるが,その大部分は特定年の突発的巨大崩壊で発生・移動・定着したのではなく,ある時期から継続していた土砂流出の累積とみる方が正しいと思われる.河谷横断面でみた場合,H面上面は河谷中心付近で自然堤防状に高まる特徴をもつ(町田1959).これは,埋積で発達した本流の広河原を覆う最後の土砂流出によるもので,土石流性の凸地形と考えられる.■堆積物の年代をより正確に限局するため,酸素同位体比年輪年代の測定や,LDやLDkと同時代に生じた可能性がある本流現河床下の堰き止め湖沼堆積物の試錐(葵区新田)を準備中である.広く普及・受容されてきた通説――大谷崩の主体はCE1707宝永地震で生じた――は,なおも慎重な検討を必要とする</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390858619526029440
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_213
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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