日本アルプスにおける氷河堆積地形と斜面崩壊定着地形の判別

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Distinguishing the landforms caused by glacial deposition and by emplacement of massive rockslope failure in the Japanese Alps

抄録

<p>1. はじめに 日本アルプスにおける氷河縁辺堆積地形(堆積物)と斜面崩壊定着地形(定着物)の識別について,その重要性が指摘されていた(岩田2003・2014QR;2010SG).それは山地地形発達論や古環境論に直結する重要な課題だからである.しかしこの問題は大々的な調査や議論とならず今日に至る.演者は,a)地形判読,b)地形構成物質の礫種判定とそれによる岩屑供給・移動経路の推定,3)14Cやテフラによる数値編年という単純かつ確立された手法で各地の地形を検証してきた.日本アルプスでは1980年代以降,地質調査所により5万分の1地質図が整備され,小流域単位で地質分布が解明されたことは大変有用だった.AMS14C年代測定やテフラ台帳の整備も重要な手助けとなった.その結果,①初生地形が斜面崩壊(以下,崩壊)と考えられる,②初生地形は氷河性の可能性もあるが,後に崩壊・変形したことが疑われる例が多数発見された(図). 2. 事例①群 初生地形は崩壊や土石流によるもので,モレーンや融氷流段丘面ではないと判明したのは,A)赤沢岳鳴沢(完新世土石流:2010QR),B)水晶岳高天原(更新世~完新世崩壊:2013JG),C)前穂高岳岳沢(最近の崩壊:2016QP),D)蝶ヶ岳蝶沢(完新世?崩壊:百瀬他1984AP;2010QR+未),E)前穂高岳奥又白谷・弁天沢(完新世崩壊:2022JG),F)上高地玄文沢・田代池(完新世崩壊:2014MC,2020HB),G)仙丈ヶ岳薮沢(完新世崩壊:神澤&平川2000AG;2015JP),H)地蔵ヶ岳ドンドコ沢(7世紀崩壊:2012TG,2018QG,2019QR),I)農鳥岳大門沢(完新世土石流:2017AG)である.崩壊はどれも中規模(105 m3)以上であった. 図 調査対象地点(基図 地理院地図) 3. 事例②群 初生地形はモレーンや融氷流段丘面の可能性もあるが,後発した崩壊や土石流により大きな地形変化があったものに,J)朝日岳朝日池(完新世崩壊:2016AP,2018KC),K)雪倉岳白高地沢(更新世~完新世崩壊:石井1998AP;2005JG),L)栂池(更新世~完新世崩壊:2013JG),M)白馬岳長池平(完新世崩壊:2013JG),N)白馬岳北股入(更新世~完新世崩壊:2008/2012JG;2011GM)がある.またモレーンが埋没している可能性は否定できないが,崩壊性の物質が覆うものに,O)槍沢ババ平(完新世崩壊:未),P)蒲田川右俣谷槍平(完新世崩壊:未)がある.逆に,モレーン(ティル)に覆われた崩壊定着物として,Q)立山タンボ沢下部の岩屑層(更新世:2014AP・2018KC)がある.R)立山五色ヶ原の火砕流台地には崩壊性らしい岩塊群が載り(更新世?:2022AP),S・T)真砂岳内蔵助谷下部や蒲田川左俣谷にモレーン(ティル)様の完新世岩屑がある(崩壊・土石流:Hasegawa他2001 IC;2018KC). 4. 課題 以上は,主に山地地形学(特に崩壊地形)や年代学などの共同研究者とともに演者がまとめてきた.氷河地形・地質学の専門家との議論がさらにほしい.また演者が採った手法はシンプルながら,結論をより強固にするための資料追加――堆積物や定着物の構造解析,年代測定など――が必要である.越後山地以北の多雪地で氷河地形とされてきたものを検証する必要もある.中緯度湿潤変動帯=日本の山地の地形発達論では,気候地形学と崩壊(地すべり)地形学双方の視点が不可欠なことを強調したい. 文献 年号のみ示した文献は苅谷を著者に含む.AG:地理評,AP:日本地理学会要旨,GM:Geomorphol.,HB:植生史研,IC:Intl. Conf. Geomorphol. Excurs. Guide Bk.,JG:地学雑,JP:JpGU予稿,KC:古今地理,MC:地図中心,QG:Quat. Geochronol.,QP:第四紀学会要旨,QR:第四紀研,SG:山岳,TG:地形,未:未発表</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390858619526031104
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_199
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ