グリーンランド・シオラパルクの麓屑斜面で多発した大規模表層崩壊

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  • Large shallow landslides in colluvial slope, Siorapaluk, Greenland

抄録

<p>1.はじめに </p><p> 地球温暖化による気候変動が進む北極圏では,自然環境の急激な変化が顕在化しており,それに伴う災害リスクも高まっている.例えば,氷河の後退や永久凍土の融解は,その場の斜面安定性に大きな変化をもたらしている可能性がある.また,豪雨イベント発生頻度の増加により,大規模斜面崩壊の多発が懸念される.本発表では,2016年と2017年にグリーンランド北西部のシオラパルク周辺で多発した,フィヨルド急斜面上の厚い崩積層の豪雨による崩壊について報告する. </p><p>2.斜面災害の概要  </p><p> シオラパルク周辺での斜面災害は,2016年8月の上旬および中旬,翌2017年の8月中旬の3度に渡って発生した.現地住民の証言と衛星画像の判読から,斜面崩壊が多発したのは2016年8月であり,2017年8月の災害は崩壊土砂が形成した天然ダムの決壊に起因した鉄砲水によるものである.これらのイベントによる人的被害はなかったものの,狩猟用小屋の流出や河川沿いの家屋への被害があった.  </p><p> シオラパルクから南東約45kmに位置するカナックでは,2016年 8月2~5日の4日間に161mm,8月17~23日の7日間に133mmの降雨を観測した.2016年8月の月降水量は301mmに達し,これは2015年,2017年の年間降水量を上回るものであった. </p><p>3.周氷河麓屑斜面の構造 </p><p> シオラパルクを含むグリーンランド北西部は,石英砂岩および礫岩を中心とする堆積岩が分布する.また,氷食作用によって形成された大比高斜面が発達している.その斜面形は平滑であり,細粒砂~巨角礫からなる淘汰度が極めて悪い崩積土層に厚く覆われている.この崩積土層の地表面には巨角礫が露出し,空隙に富んでいるように見えるが,地下では酸化した粗粒砂以下の画分が巨角礫間を充填し,基質支持層を形成している. </p><p> 崩積土は原位置で形成されたものと,上方から移動して残置しているものがあると思われ,斜面末端が侵食によって取り去られている場でなければ,基本的に斜面下部ほど厚い傾向があり,その厚さは最大で10m近くに達する. 崩積土層の下にある基盤岩には,顕著に発達した開口亀裂がみられた.その要因としては,凍結破砕作用や退氷後の応力変化が考えられる.すなわち,厚い崩積土層下の基盤岩中にも水を通しやすい経路が存在することになる. </p><p> 堆積岩中には所々に風化抵抗力の大きい単層が存在し,これが斜面縦断形に凸部を作っている.凸部の上面には崩積土を大量に上載する集積面が形成されている場合がある.そのため,安息角を上回る急傾斜面上にも大量の崩積土が残置することができている. </p><p>4.大規模崩壊のメカニズム </p><p> 変水位・不飽和タイプの原位置透水試験装置(Meter 社,Mini disk infiltrometer)によって崩積土層の巨角礫を充填する砂画分の透水係数を調査したところ,崩積土の透水性は1×10-4~1×10-2cm/s程度と比較的低いことが判明した.そのため,降雨が相当期間あったとしても地下数m下まで崩積土層全体が飽和に至るかは疑問が残る結果となった. </p><p> 一方,現地踏査では,崩積土下の基盤岩の亀裂から豊富に流出する湧水が確認できた.湧水は崩壊源の下部で見られ,基盤岩は還元環境を反映した淡緑色を呈していた. </p><p> 以上のことから,シオラパルク周辺の大規模表層崩壊は,地表面からの雨水浸透による土層飽和のみでなく,斜面上方で基盤岩の亀裂に浸透した大量の雨水が,斜面中腹で湧き出し,その際に生じる水圧によって崩壊が発生している可能性も考えられる.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390858619526110976
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_265
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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