首都圏の震災調査に関する地理学者の貢献

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  • Geographers’ Contribution to Earthquake Disaster Investigations of the Tokyo Metropolitan Area

抄録

<p>1.関東大震災発生直後の調査</p><p> 震災予防調査会報告の第百号(1925)は,関東大震災に関する調査報告で,5編6分冊からなる。その「乙」(地変及津波編)に,同調査会委員の山崎直正は「関東地震ノ地形学的考察」という報告を載せ,関東地方は断層で区切られた数多くの地塊からなり,それぞれの地塊がブロック運動をしているという考えを示している。現在の目で見たときには,関東各地において地震時に生じた「地変」の観察記録として資料的価値がある。延命寺地震断層,下浦地震断層についてはほぼ唯一の観察記録であり,海底が隆起して水面上に出現した現象や液状化とみられる現象の写真付き報告も貴重である。</p><p> 地理学評論では,第1巻(1925)で,田中薫による「震災直後に於ける東京市の交通」という報告が3回に分けて掲載されている。市街電車等の公共交通機関の被害と復旧状況をまとめたものである。</p><p> しかしながら,上記以外で地理学者が震災に関する調査を積極的に行ったり,地理学を土台として復興や防災のための活動をした様子は見られない。地学雑誌には1923年に関東大震災の特集号があり,速報的な調査報告が掲載されているが,執筆者に地理学者は見られない。</p><p>2.震災対策のための調査(主に1970年代)</p><p> 1970代になり,プレートテクトニクスの考えが定着したこともあって,首都圏での大地震の可能性が認識されるようになった。この時期,東京都防災会議の主要メンバーであった中野尊正を中心として,東京都立大学の地理学者が首都圏の震災対策のための調査研究を行っている。具体的には貝塚爽平・山崎晴雄らによる活構造の調査研究,松田磐余らによる低地地盤の調査や1923年関東地震の被害との関係の研究,田村俊和による1923年関東地震の表層崩壊発生や丘陵地の建物被害との関係についての研究などである。神奈川県も震災対策のため活断層の調査を行っており,太田陽子・池田安隆が担当した。</p><p>3.活断層・古地震の研究</p><p> 首都圏に限ったことではないが,1960年代後半頃からの全国の活断層のカタログづくり,トレンチ調査による古地震の解明,詳細な活断層図の整備などは,地理学者が大きな役割を果たしてきた。1923年関東地震と同様の相模トラフで発生するプレート境界地震については,1970~80年代に太田陽子・米倉伸之ら,中田 高ら,熊木洋太など,1990年代以降宍倉正展による変動地形学的研究の成果が出され,次の関東地震の発生時期の評価に貢献している。</p><p>4.1923年関東地震の土砂災害に関する調査研究</p><p> 丹沢山地などで,1923年関東地震以降崩壊が多発するようになったことは,1970年代の田中正央の研究などで知られている。1995年の阪神・淡路大震災以降,地震による土砂災害への注目度が高まり,井上公夫が多くの調査研究を行っている。その編著による『関東大震災と土砂災害』(2013)は関東大震災に関わるものをまとめたものである。</p><p>5.人文地理学分野の調査研究</p><p> 関東大震災は東京の郊外化を促進したことなど地域構造の変化をもたらしているが,発表者が知る限りでは,震災そのものに関して人文地理学者が取り組んだ例はほとんど見当たらない。ただし最近,梶田真は,人口データをもとに,震災による東京中心部の社会-空間パターンの変化を論じている。</p><p>6.東京都による近年の震災対策の調査</p><p> 東京都による震災の被害想定や震災対策の立案などには,建築学出身であるが地理学分野でも活動している中林一樹が深く関わっている。これについては,このシンポジウムで本人の発表が予定されている。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390858619526117248
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_283
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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