苗場山亜高山帯における植生景観とその成立条件

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  • Relationship between Vegetation Landscape and Environmental Conditions on Mt. Naeba

抄録

<p>1.はじめに </p><p> 中部地方から東北地方の日本海側山地の亜高山帯の領域には,オオシラビソを主体とする針葉樹林を欠き,ササや灌木を主とする植生が成立する特徴的な植生景観が見られ,偽高山帯と呼ばれる.偽高山帯の成因については,これまで地形条件や気候条件,地史的植生変遷などの観点から検討が行われてきた.しかしながら,十分に説明できていない部分もあり,個別の山域で研究を積み上げて検証していく必要がある(池田,2016).</p><p> 本研究は,苗場山亜高山帯における植生景観の成立条件を明らかにし,苗場山における偽高山帯の成因を検討することを目的とする.苗場山(2,145m)は,新潟-長野県境に位置する第四紀火山である.冬期には3m以上の積雪がある.近隣の越後三山,巻機山などがオオシラビソ林を欠く中,苗場山は,広大な面積のオオシラビソ林を有している.しかしながら,その分布は一様ではない.オオシラビソばかりではなく,広葉低木やササ,ダケカンバなどが入り組んで分布している.すなわち苗場山は,亜高山帯の要素と偽高山帯の要素を併せ持つ山岳といえる. </p><p>2.研究方法</p><p> 空中写真判読および植生図から判読した苗場山亜高山帯における植生分布と斜面傾斜,地形条件,積雪分布との関係を検討した.さらに,山地帯から山頂までの範囲に複数のトランセクトを設定し,各地点の植生を記載するとともに,側線に沿った微地形,土壌水分量を測定した.これらのデータをもとに植生分布と環境条件の関係について検討を行った. </p><p>3.広域の気候・地形条件</p><p> 苗場山亜高山帯周辺の傾斜分布とオオシラビソ林の分布を比較すると,傾斜20°以下の斜面にオオシラビソの分布が認められ,まとまったオオシラビソ林の分布は傾斜10°以下に限られる.特にオオシラビソの発達が良いのは,山頂西側斜面標高1500~1800mにある地すべりブロック上の緩斜面である.</p><p> また,2017年6月初旬における残雪分布とオオシラビソの分布との間には,明瞭な対応関係はみられなかった.すなわち,緩傾斜斜面において積雪深や積雪期間は,オオシラビソの分布を規定している要因とは考えられない.</p><p>4.微地形と水分条件</p><p> 空中写真判読の結果から地形分類図を作成した結果,山頂付近の緩斜面上には苗場山から噴出した溶岩流の地形が残存していることが確かめられた.溶岩流の表面には,溶岩しわと考えられる線状の凸地形が発達する.山頂平坦面におけるオオシラビソの分布は,溶岩流末端の急斜面や溶岩しわの線状凸地形とよく一致する.</p><p> さらに,実地調査から得られた結果より作成した各トランセクトの植生タイプと土壌水分の分布図から,植生分布は,土壌水分の影響を受けていることが推測された.山頂付近の平坦面において,溶岩流上面の平坦な凹地形の部分には湿原が発達し,線状の凸地形の部分にはオオシラビソ林がみられる.そして両者の境界部分にササ原が分布する.土壌水分は,凸地形の部分では低く,凹地では高いという傾向が見られた.また,溶岩流末端では,傾斜が急になるにつれ土壌水分量が低くなり,それに伴って湿原からササ原,オオシラビソ林へと移行する様子が見られた.さらには,山地帯に分布するブナ林の土壌水分量は,オオシラビソ林より低いことも確認された.</p><p>5.まとめ</p><p> このように,オオシラビソ林の分布を規定しているのは,広域的には気温としての標高,および積雪量と斜面傾斜の組み合わせである.しかし,細かく見ると微地形と対応する土壌水分条件が分布を規定する重要な条件であることが確認された.土壌水分がオオシラビソの分布を規定する要因であることは,今野(2016)によってすでに指摘されている.苗場山では,土壌水分が高すぎても低すぎてもオオシラビソの分布が見られないことが一つの山域で確かめられた.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390858619526118144
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_287
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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